松村潔のアナザーワールド/vol.6 タロットカードと「世界卵」からの脱出

タロットカードはロゴスの体系なので、いろんな応用的な読み方が可能だが、たとえば一番最初のカードと、最後のカードは「鏡像関係」にあると考えても良い。「前から二枚目は、後ろから二枚目と鏡像」というふうに見ることができる。

最初のカードは「1魔術師」で、これは外の宇宙からこのコスモスの中に生まれてきたという段階のカードで、このカードに割り当てられているヘブライ語は「家」を意味している。
家とは母の子宮でもあり、地球という球体をひっくり返して、この球体の内部にいるというふうに考えてもいい。子供は家の中でいろんなおもちゃで遊ぶもので、「1魔術師」のカードでも机の上に小道具がたくさん置いてあり、魔術師はこれらを楽しんでいる。

よく言われるのは「机の上には四元素がある」という話だ。このカードは、最初は母の子宮、次にその大型版としての地球の中で活動しているという点で、わたしたちは死ぬまではこの「1魔術師」の境遇から一歩も出ていないと考えてもいいかもしれない。地球という母から自由な人はほとんどいない。

北欧神話では「空は巨人の頭蓋骨の内部」と言われていたが、この地球世界は巨人の頭の球体の中と考えられた。この巨人はカバラではアダム・カドモンと言われ、宇宙単位の大きさの原人だ。
もちろん宇宙単位と言っても、これは階層化されたいくつかの段階がある。詩人のウィリアム・ブレイクは、「ある時、この巨大な世界の卵が割れてしまった」と言う。大きな宇宙の卵の中には、より小さな世界卵があり、これは、それぞれの人間であると考えることもできる。

つまり、大きな卵は大きな自己であり、この中にはたくさんの小さな自己が詰まっていると考えてもいいのだ。大きな卵の殻が割れてしまったために、小さな自己は外界の虚無と不均衡な勢力にさらされることになり、この苦痛から自分を守るために、自分の中に閉じこもることになった。
この感覚への閉鎖というか、エゴに閉じこもることが行き過ぎても困るので、神はこの縮小に「限界点」を設け、ウィリアム・ブレイクはこれをアダムと名付けている。

オルペウス教讃歌では「卵が割れて四つの元素が現れる」となっているが、ブレイクの考えだと本来は調和した四つの元素は、卵の形成以前に存在しており、閉鎖された卵が形成された後には、四元素は混沌として互いに対立したような形で、卵の内部に入り込んでくる。
「1魔術師」の机の上にある四元素は、子宮、部屋、卵の内部に入り込んだものだと考えてもいいかもしれないし、ウィリアム・ブレイク式の発想である縮小ということの「限界点」にとどまる間は、この四元素のひとつに過度に没入することはなかったろう。

でも、後の時代に、人間はアダムの枠よりもさらに小さな、細分化されたところに入り込んでしまい、つまり四元素のどれかに没入して、小さな自己としての人間よりも、さらに分割魂のように小さなものになってしまったとも考えられる。

今どき、四元素を均等に扱う人はそう多くない。たいてい、この4つのうちのどれかひとつに自己同一化してしまう傾向がある。つまり家の中の子供は、おもちゃの一つにはまってしまい、それを手放せなくなるのだ。このおもちゃのどれかを生きがいにしてしまうのだ。

四元素は、全部の合計で成り立つもので、ひとつだけが単独で存在することはできない。
なのでそのどれかに没入してしまうと、自分にとって影になるような元素に依存したり、敵対したりしながら生きることになるし、そもそも四元素化というのは、実は“時間と空間を作ること”であるので、永遠性の自己というものを忘れて、特定の時間と空間にしかいない自分を「本来の自分である」と勘違いしてしまう。

「1魔術師」のカードは世界の中に転落してしまったことを意味しているが、頭の上にはレミニスカートが描かれており、これは“忘却”を意味する。
そもそも巨人の頭蓋骨は壊れていないのだが、人間の側が自分の本来の場所を忘れてしまったので、頭蓋骨の保護はもうなくなったと勘違いしたと考えてもいいかもしれない。巨人の頭蓋骨が割れたことなど、一度もない。

鏡像になっている最後のカード、「21世界」のカードでは、楕円の枠の中に両性具有者がいて、この枠の外側に4つの元素を示す、おうし(土)・獅子(火)・鷲(水)・天使(風)が配置されている。
オルフェウス教にしても、世界中にある「世界卵思想」では、一者は二極化して男女に分岐するが、これは卵の内部で生じるプロセスで、四元素は卵の内部のものというよりは、卵が割れることそのもので生成される。
もう書いたように、四元素は時間と空間を作り出し、それと比較して、卵そのものは永遠性を示している。
「21世界」のカードでは、世界の中に転落した「1魔術師」が最後にたどり着く達成段階をあらわしているのだが、卵の中に侵入してきた四元素は、卵の外に押しのけられている。

この世界卵に関しては、ウィリアム・ブレイクは奇妙な書き方をしている。彼の詩では、悪と善の元の合理的真理として、「私は暗い両性具有となって立った。周りには炎の剣が流れ、彼女の回りには雪の嵐が吹き、そのヴェールを凍らせ、世界殻となった」という記述がある。
卵の周囲は炎であるというのが古代からの思想の定説だったが、ここでは女性というものが出現し、この女性の周囲は冷たい雪の嵐が吹いて、硬い世界の卵の殻ができたというのだ。

卵の中では両性具有者である以上は、この女性とは自分の半面でもある。それは硬い卵の殻を作る。ウィリアム・ブレイクの思想は、想像力で呼び出すものこそが世界の真実であり、感覚的現実というものは、いわば想像力が形骸化して死んだものとみなされる。
世界卵の硬い殻は、自分の女性的側面である感覚的なことに没入してしまう要素が作り出し、それは炎の中になく、冷たく容易に壊れない硬いものだと言うのだ。

四元素で女性的なものと言われるのは、だいたい「土」と「水」で、これは冷たいもの。男性的なものとは「風」と「火」で、これは炎に近い。
ということはウィリアム・ブレイクの詩では、両性具有者はもとの一者に戻っておらず、男性的側面として炎の剣に包まれ、女性的側面として雪の嵐の中にいるということになる。

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。