この連載がきっかけとなって生まれた気づきの短編集『プルートに抱かれて』が、8月8日に発売されたヘルメス・J・シャンブさん。
今回も、ヘルメスさんお得意の“小説タッチの気づきの物語”をお届けしましょう。
※2冊目の著書『道化師の石(ラピス)』も小説仕立てで、独自の世界観を伝えています。

 

単なる小説とは一線を画す、新鮮な体験!
『プルートに抱かれて』
ヘルメス・J・シャンブ著/ナチュラルスピリット

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ギリの物語2

どこまでも限りなく広がっているようなその大海で、ギリという名の鳥と、イルカたちが遊んでいた。
「例えばね」とイルカが言った。「空を飛んでいる時に、自分という感覚のない自分がいるだろう? つまり、特に意識をしなくても、自分という存在が在り続けている」
「うん」とギリは返答した。「何となくだけど、わかるよ」

「君が海に潜る時にも、自分という感覚のない自分が変わることなんか、あり得ないんだ」
「うん」

「どこにでも繋がっているその空洞を見つけるには、まず、その“自分という感覚のない自分”に落ち着くことが大切なんだよ」
ギリには、とても難しい話に思えて仕方がなかった。

「例えばね」とイルカは続けた。「僕たちは、この海のどこかに仕掛けられている魚を捕獲するための網が、物理的にはとっても嫌いなんだけど、でも、網には空洞があるだろう?」
「どういうことだい?」

「そうだね、鳥籠にも空洞はあるし、人間が冬に着るセーターというものにも空洞がある。網の内側にも外側にも水があるようにね。
鳥籠だって同じ、内側にも外側にも空気がある。セーターだって同じさ。どんなに密集していて隙間がないように思えても、そこには内側と外側を行き来できる空洞というものがあるのさ」
「昔、おじいさんがこんなことを言っていたよ」とギリは思い出して伝えた。「壺の中にも外にも、同じ空気があるって」

「おお」とイルカたちは喜んだ。「君のおじいさんは、只者ではなさそうだね」
ギリには意味がわからなかった。

イルカは一呼吸を置いて、また続けて話した。
「空と海には、境界線があるように見えるけれど、本当に境界線というものがあるのかな?」
「たぶん、ないと思うよ」とギリは答えた。「だって、僕は海に潜ることができたからね」

「そうさ」イルカたちが跳ねて、空を飛んでみせた。
「境界線があるように見えても、実際にはどこにも境界線がないように、秘密の空洞を見つけると、セーターの内側にも外側にも自由に行き来ができる。
でも、こういったことは、物質的な意味ではないんだ」
「ますます、難しくなってきたね」とギリは混乱して言った。

「そうでもないさ」とイルカは伝えた。
「君が、自分は空を飛んでいて、空しか飛べないと思っていたら、いつまでも海の中を泳ぐことはできないよね?」
「うん」

「つまり、外的な何かは、精神的なことから生まれるのさ」
「ところで」と、ギリは急かした。「どうしたらその、自分の中の秘密の空洞を見つけることができるんだい?」

「わかってないようだな」とイルカが言った。
「君がもし、どこに? と尋ねてしまったなら、空洞を見つけることはできなくなるのさ」
「わからないよ」とすぐにギリは反論した。「だって、僕はその秘密の空洞を探し出したいんだから」

「いいや」とイルカは譲らなかった。「もう一度伝えるよ、君が、自分はこの世界の中に暮らしているんだ、と信じるなら、もうどこにも行くことができなくなるのさ」
ギリは言葉を返せなかった。

「さっき君は」とイルカは言った。
「海には潜れない、と思いながら潜ったのかい? いいや、そうじゃないだろう? そんなふうに思ったらきっと君は潜れなかったし、潜った瞬間に溺れることだけをイメージするはずだ。
でも君はさっき、何も考えていなかった、無心になって、ただ潜っただけだ。そうじゃないか?」
ギリには、ようやく言わんとしていることが理解できてきた。「で、どうすればいいんだい?」と若い鳥はまた急かした。

「焦るなよ」とイルカは優しく言った。「焦ってうまくいくことはないんだ」
「そうだね、そうかもしれない」とギリは納得した。

「空と海に、境界線があるように思えても、実際には境界線なんて存在しないように、君は自由にどこにもでも行くことができる。
そして、それが可能なのは、全てが空洞で繋がっているからなんだよ」
「僕が聞きたいのはね」とギリは言ったが、すぐにイルカに遮られた。
「ちゃんとわかっているよ、知りたいのは、空洞はどこだってことだろう? でも僕たちはもう、君にそれを伝えているよ、何度もね」
「わからないよ」とギリは即答した。

「つまり」とイルカは言った。「空洞とは、君そのものなんだ。自分という感覚のない自分、それがどこにでも繋がっている空洞そのものなのさ」
ギリにはまだ、明確に理解することができなかった。
「じゃあ」とギリは尋ねた。「僕は空洞なの?」

「でもいいかい」とイルカは教えた。
「空が何もないと思うかい? いや、空にはたくさんの要素が含まれている。例えば、酸素とか窒素とかね。つまり、自分という感覚のない自分は、空洞で在りながら、その空洞は何かによってきっちりと充満している、ってことなのさ」

ギリは突然、大海に真っ直ぐに飛び込んだ。そしてまた、半円を描いて空に飛んだ。
「混乱した頭でも冷やしているのかい?」とイルカが冗談を言った。
「いや」とギリは答えた。「無心になる、という感覚を確かめてみたかったのさ」

そして、イルカは最後に伝えた。
「飛びたいと思うなら、君は飛ぶ。海を泳ぎたいと思うなら、君は泳ぐ。とてもシンプルなことさ。
君がこの世界ではない世界を見たいなら、今の世界のイメージを捨てて、まずは無心になることだ」
「なるほど」とギリは言った。「じゃあ、もしも僕が空洞そのものになったら・・・」

イルカがその続きを言った。
「そうさ、君はどこにでも行くことができるし、あるいは誰かが君の元に来て、君とコミュニケーションを取ることだって可能になる。そして、それらは全て、君の中で起こっていることなんだ」
「僕の中?」

「そう、どんなふうに何が見えても、君の世界で起きてるんだ」

 

 

ヘルメス・J・シャンブ
1975年生まれ。30代前半、挫折と苦悩を転機に、導かれるように真理探求の道に入る。さまざまな教えを学び、寺で修業し、巡礼の旅に出るが、最終的に「全ては私の中に在る」と得心、悟入する。数回に分けて体験した目覚めにより、ワンネス(一つであること)を認識し、数々の教えの統合作業に入る。「在る」という教えは、これまでの師たちの伝統的な教えであるため、師たちの名前を借りて「ヘルメス・J・シャンブ」と名乗り、初著作『“それは在る』を執筆。 その後『道化師の石(ラピス)』も刊行。現在は、ナチュラルスピリットでの個人セッションなどで、探求者たちに教えを伝えている。

https://twitter.com/hermes_j_s
https://note.com/hermesjs

『へルメス・ギーター』
ヘルメス・J・シャンブ著/ナチュラルスピリット

 

『道化師の石(ラピス) BOX入り1巻2巻セット』
ヘルメス・J・シャンブ著/ナチュラルスピリット

 

『 “それは在る』
ヘルメス・J・シャンブ著/ナチュラルスピリット

 

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