2月に新刊『ヘルメス・ギーター』が発売され、スタピチャンネルの動画でも人気のヘルメス・J・シャンブさん。
今回も、ヘルメスさんお得意の“小説タッチの気づきの物語”をお届けしましょう。
※2冊目の著書『道化師の石(ラピス)』も小説仕立てで、独自の世界観を伝えています。

『へルメス・ギーター』
ヘルメス・J・シャンブ著/ナチュラルスピリット

スタピチャンネルで動画を公開中!

アロマテラピー

テペという名も知られていない国の若者の話である。
ある満月の夜、彼は夢を見て、神からのお告げを聞いた。テペは翌朝目覚めると、両親にこのように告げた。
「私はニポンという国の、トキョオーという場所に行かなければなりません。どうか、お許しをください」。
彼は飛行機に乗り、ニポンに向かった。

彼はトキョオーに着くと、匂いのする場所を次々と訪れて、彼の暮らす国の秘宝と言われる薬草、そのエキスのことを説明し続けた。
匂いのする場所では、様々な香りを放つ、若くてきれいな女性がていねいに対応してくれたのだが、誰も彼の話を信じる者はいなかった。

一日、二日、三日と歩き続けて、彼の足には痛みが走るようになった。そして、それは次第に激痛となった。
四日目、彼が新しい匂いの場所に着くと、そのフロアに倒れるように座り込んだ。もう片足が限界だったのだ。

「どうかなさいましたか?」と香る女性が慌てて近寄り、心配そうに尋ねた。
「右足が、もう痛くて仕方ない」とテペは答えた。
「では、病院に行きましょう、歩けますか?」
 テペは質問した。
「病院とは何ですか?」
 すると、店員の彼女は答えた。
「あなたのその足を治療するところです」
 疑問に思ったテペが、再び尋ねた。
「ここで、治療薬を売っているのではありませんか?」

店員の女性は、始めは意味がわからなかったが、ふと気づいてこのように答えた。
「アロマとは治療薬ではありませんよ」
その言葉を聞いて、テペはあることに気づいた。

私は秘宝を持っているのに、どうしてこの薬草を自分に使わなかったのだろう?

そこでテペは、すぐにその薬草のエキスを自分の右足に塗りつけた。よし、これですぐに完治するだろう、と思った。そしてまた、なぜこのような当たり前のことに今まで気づかなかったのだろう、自分はバカだ、と自分を責めるのだった。

その時、ふと彼の脳裏を一つの考え方がよぎった。
そうか、こうして実際に使ってみて効果を見せることで、この秘宝の存在を世界に伝えることができるのだ、神様の計画とは、このようなものだったのだ、と。

ところが、彼の右足はまったく良くはならなかった。痛みは増しており、酷くなる一方だったのである。
彼は寝泊まりしていた公園のベンチに戻り、これはいったいどういうことなのだろうと考え始めた。なぜなら、この秘宝である薬草のエキスを塗って完治しない病はないと、両親や村の住民たちから何度も聞かされていたからである。

にもかかわらず、実際に彼がこの薬草を自分自身に用いたことは、一度もなかった。なぜなら、彼の身体が痛くなり、悪くなることはこれまでなかったからだ。よく考えると、それは自分だけではないことを思い出すのだった。
つまり、これまで秘宝と言い伝えられてきたこの薬草エキスを実際に用いた者は、村には誰もいなかったのである。

なぜ神様は、この私に、この秘宝を世界に伝えるように告げてきたのだろうか?
彼には疑念が浮かび、それらの事象はただの夢だったのではないかと思うようになってきた。そして、もう故郷に帰ろう、と思うのだった。
この薬草には、なんの力もない、だから、みんな私の話を信じなかったのだ、と。

村に帰る頃には、彼の右足の状態はもっと酷くなっていた。腫れ上がり、曲げることさえできず、片足を引きずるようにして歩いていた。村に帰ったテペに、村人たちがこのように尋ねてきた。

「トキョオーとはどういうところだった? 風は強いか? 動物たちは凶暴か?」
テペは言葉を忘れたかのように、ただじっと沈黙していた。
その姿を見て、老人たちは口を揃えて子どもたちに伝えた。「この村を出てはいけない。あのようになってしまうから」と。

テペがニポンに行くことを、両親はもちろん、心の中では大反対だった。このような事態になることがわかっていたからである。
だが、両親はこのこともわかっていた。息子の右足は、一週間もすれば完治する、と。

村に戻って来て、ちょうど一週間目の朝だった。テペが目覚めて起き上がると、右足は嘘のように完治していた。もう、痛みも腫れもない。

「嘘だ」と彼は疑った。「いったいどうして? 何が起こったのだ?」

テペは簡素な作りの家から出て、朝日を拝んだ。その日の朝日は、いつにも増して神々しく輝いており、まるで主の御手が自分に触れているようにさえ思えた。

目の前、一面に、大自然の力が溢れている。その偉大なる神秘の息吹を、音のない沈黙の調べとともに感じた。犬と猫はお互いに寄り添って、まだ眠っている。
無風の静かなる大地には、秘宝の香りが充満していた。

 

ヘルメス・J・シャンブ
1975年生まれ。30代前半、挫折と苦悩を転機に、導かれるように真理探求の道に入る。さまざまな教えを学び、寺で修業し、巡礼の旅に出るが、最終的に「全ては私の中に在る」と得心、悟入する。数回に分けて体験した目覚めにより、ワンネス(一つであること)を認識し、数々の教えの統合作業に入る。「在る」という教えは、これまでの師たちの伝統的な教えであるため、師たちの名前を借りて「ヘルメス・J・シャンブ」と名乗り、初著作『“それは在る』を執筆。 その後『道化師の石(ラピス)』も刊行。現在は、ナチュラルスピリットでの個人セッションなどで、探求者たちに教えを伝えている。
https://twitter.com/hermes_j_s
https://note.com/hermesjs

『道化師の石(ラピス) BOX入り1巻2巻セット』
ヘルメス・J・シャンブ著/ナチュラルスピリット

 

『 “それは在る』
ヘルメス・J・シャンブ著/ナチュラルスピリット

 

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