17世紀のイギリスの大占星術師による名著『クリスチャン・アストロロジー』(ウィリアム・リリー著、太玄社)の翻訳を手がけ、ご自身も占い師と風水師としての顔を持つ田中要一郎さん(写真右)。
そんな田中さんが、占い界の重鎮クラスのゲストを招いてスペシャルトークするのが、この企画。
6回目のゲストは、インド占星術研究家であり、英語とヒンズー語も堪能で、博士号(PhD北海道大学)を持つ科学者でもある清水俊介さん。日本人でただ一人、インドにある占星術の専門学校「バーラティーヤ・ヴィディヤー・バヴァン」の卒業生である清水さんと、インド占星術も研究している田中さんが、共通のテーマに話を弾ませました。
2人の占術の専門家による、ディープな世界をお届けしましょう。
1年のつもりが6年も滞在したインド占星術学校
田中 清水さんは、インドにある専門学校「バーラティーヤ・ヴィディヤー・バヴァン」(以下、BVB)の、日本人では唯一の「占星術の専門コース」の卒業生ですよね? そのコースは、K・Nラオさんという偉大なインド占星術家が、先生を務めることで有名ですが。
清水 はい、そうです。BVBはインドの伝統文化を教える私学ですけど、インド建国よりも歴史の古い、由緒ある学校です。
その学校には、いろんなクラスがあって、ヨガや日本語コースもあります。僕は英語とヒンズー語が少しできるので、「日本語をウチで教えないか?」なんて言われましたけどね(笑)。
田中 そういう感じなんですね(笑)。卒業してからは?
清水 卒業して、さらに、BVBに居座りました。授業に出たり、ラオ先生の助手をしたりと。
最初は1年の留学予定だったんです。でも、先生から学ぶインド占星術があまりに面白くて、帰れなくなってしまい、2008年末から14年まで、合計6年間いました。
田中 えー、そんなにいらっしゃったんですか(笑)。
清水 人生を捧げてしまいました(笑)。僕の目的は、ラオ先生の本を翻訳したかったんです。彼をリスペクトしていましたから。
ただ、「占星術をしっかり修めないで、中途半端な知識のままで翻訳するのは難しいだろうな」と思ったので、とにかく1年だけ、BVBに留学しようと決めたわけです。
田中 なるほど、そうだったんですね。
清水 現地でラオ先生に、「先生の本をすべて日本語に翻訳させてください」って言ったら、「ちょっと待て」という雰囲気だったので、テーマを変えてこう言いました。
「1年だけ勉強しますので、先生のアーチャリア・クラスに入れてください」と。
田中 「アーチャリア」って何ですか?
清水 アーチャリアは日本語では「阿闍梨」のことで、マスターという意味です。BVBは2年制で、2年目の上級コースにあたります。アーチャリアを卒業できると、資格みたいなものとして日本では権威にもなるので。
「アーチャリア・クラスに入れてください」」なんて、今考えれば、あり得ない発言ですよね。僕が受けた待遇は、今後もあり得ないほど異例なことでした。なのに、なぜか「いいよ」って言われて。
田中 1年飛ばして、飛び級だったんですね!
清水 それで結局、アーチャリアを学び終えることができました。「ジョーティシュ・アーチャリア」というタイトル(称号)が欲しかったのもありますが、実は1年目は本からでも学べる内容で、2年目のアーチャリアは学校でしか学べない内容だったんです。
そのアーチャリアを終えた翌年、滞在をもう1年延期することにして、1年次のアランカー・コースに在籍し、コースを取り直しました。
田中 特別待遇を受けたことに対し、周囲のインド人からのやっかみはありましたか?
清水 やっかみはむしろ、別のところでありました。クラスの中で、僕はノートパソコンを持っていたけど、みんなは持っていなかったので。
田中 え!? 10年前は、インドではそういう状況なんですか?
清水 ええ、10年前はそんなものでした。最初の頃は、ラオ先生と僕しかノートパソコンを持っていなかったので、「お前、いいな」とやっかまれて。でも、僕が日本に帰る頃には、みんな持っていましたけどね。
田中 その後、ラオ先生を日本に招いたんですか?
清水 僕ではなく、僕が日本に招いていたビサリアさんというインド人の占星術家が招いてくれました。
「そろそろ、Mr.ラオを日本に呼ぶ時期だ」とおっしゃって。
田中 そうだったんですか。ラオ先生の来日は2012年のことですよね。僕は2011年から、ビサリアさんの授業に参加していたんです。
清水 そうだったんですね。ちょうどその頃、BVBでも「インターナショナルセミナー」が始まりました。世界中の人を、年に一度、10日間ほど受け入れるコースです。
でも、来たのはロシア人ばかりでした。なぜなら、ラオ先生は90年代後半からロシアに行き始めたからです。ロシア人はけっこう真面目に学んでくれるみたいで、当時のロシア人生徒は教育水準が高く、博士号取得者が生徒50人のうち45人くらいいたそうです。
田中 ええ!? そんなに。
清水 その手前の90年代前半、ラオ先生はアメリカに赴きました。現地では歓迎されたものの、「客寄せパンダ」扱いされたんです。でも、そのおかげで、インド占星術がアメリカで広まりました。
ラオ先生からすると、アメリカ人は商売には真剣だけど、占星術を学ぶこと自体にはあまり真剣ではないので、95年を最後に、それ以来行かなくなったんです。
ラオ先生に惹かれてインド占星術の道へ
田中 ところで、生まれはどちらですか?
清水 北海道の札幌です。
田中 いくつまでいらっしゃいました?
清水 30歳過ぎまでです。
田中 上京したきっかけは?
清水 大学院まで進み、本当は研究のために大学に残る予定でした。でも、留学から帰ると教授が変わっていて、それから色々あって、それで「やーめた」と。
田中 ははは。それで、東京で仕事をしようと?
清水 そうですね。
田中 占いを始めたのは?
清水 占いはそれまではまったく縁がなくて、始めたのはラオ先生の存在を知った2000年以降からなんです。
西洋占星術に「1日1年法」とかありますが、 友だちからそういうのを聞かされても、僕はどちらかというとさっぱり理解できないというか、まったく受け入れられないタイプなんです。だから僕は、技法から入っていかなかったんですよ。でも、それがよかった。技法から入って行くと、全然わからないから。
ラオ先生を知ったのは、「面白い先生がいる」と聞いたからです。僕は大学時代も「面白い先生がいるなぁ」と思って、卒論を書く研究室を選んだほどです。
田中 人で選ぶんですね?
清水 そうなんです。僕は、何かの縁で人とつながるタイプで、「あ、この人面白そうだな」というのがきっかけになります。
その逆もあって、留学先から帰ったとき、指導教官が変わっていたのは大きかったですね。そういう部分で、研究を続けるモチベーションが大きく下がったりもしました。
占いを始めたのも、ラオ先生がよく当たるからで、勉強してみると、確かにすごく面白くて。そこで、インド占星術からスタートしたんです。
ラオ先生の周りにいる生徒も、ほとんど僕と同じです。占星術ファンというよりも、ラオ先生ファンという感じ。
田中 なるほど。僕もラオ先生が来日されたとき、授業を受けさせていただきましたけど、普通の先生の授業とは違いましたね。言葉の選び方とか重みとかが、明らかに違うというか。そんな印象でした。
清水 彼はダントツだと思います。そういうわけで、僕はラオ先生がいたからインド占星術をやっている、という感じです。もしラオ先生が西洋占星術をやっていたら、僕も同じことをやっていたでしょうね。
田中 なるほど(笑)。他の占いは全く興味がなかったんですか?
清水 あ、いいこと聞いてくれました(笑)。実はインドに行く前は、中国占術や風水も学んだんです。
なぜかというと、自分の中にまだインド占星術に対する確信がなくて、不安だったんです。それで2、3年、いろんな先生から学びましたね。
でも、僕が中国の占いにしばらくのめり込んでしまったので、生徒さんは「インド占星術に夢中だった清水先生は、どこ行っちゃったんだろ?」と思っていたみたいで(笑)。
田中 そうですよね(笑)
清水 ラオ先生から学んでみて、気づいたことがあります。不安感があったのは、単に僕のインド占星術に関する知識が不足していたからだった、ということです。
田中 確かにインド占星術というのは、すごく技法が多いですしね。
清水 そうそう。当時の僕が、知識もスキルも不足しているのは当たり前だったんです。ネットや本に書かれてある知識は玉石混淆であるだけでなく、全体から見たらほんの一部でしかないですからね。
よく言われることですが、独学にはおのずと限界がありました。なので、本場の学校でしっかり学んで不安が少しずつ無くなっていく中で、インド占星術に対する確信が育っていき、それ以降は、もう一筋になりました。
田中 それで、中国系の占いは全てやめたんですか?
清水 はい。当時作った中国系の占術の資料は、友だちにあげました。よくまとまってるらしく、それを仕事で使っているそうです(笑)。
田中 はははは。中国系の占術や風水も熱心に勉強されていたんですね。
誤解されやすいインド占星術の特徴
田中 インド占星術のことを「ジョーティシュ」とも呼びますね。
清水 ジョーテは「光」、イシュはインシュワラではないかと言われていて、インシュワラだと「神」です。だから「光の神」。でも、定かではないですけど。
田中 よく「光の科学」と訳されていますよね。
清水 それは間違いではないと思います。光というのはアーカッシュレコードを指し、コーザルという「全ての根源」「宇宙の根源」という意味を含んでいます。
田中 インド占星術は、「プレディクション」(予測)の面で優れている気がします。
他にも特徴はいくつかありますが、サイン(星座)に対して「歳差運動」を考慮していますよね。
清水 そうですね。それによって、星座のズレを正すことをしています。今、それぞれの星座が24度くらいズレているので。
田中 そのズレの影響で、インド占星術でホロスコープを見たとき、人によっては、西洋占星術での自分の星座とは一つズレた「手前の星座」になります。
たとえば、西洋占星術で太陽が「牡羊座」にあっても、インド占星術では「魚座」になることがあります。だからと言って、「私は魚座っぽくないから、インド占星術は当たっていない」と思うのは、非常におかしな結論でして。
こういうことは、現代西洋占星術しか勉強したことのない人に限って主張してきます。「またかぁ」って思うんですけども。
何年もインド占星術を勉強すると、そういった発言はしないはずなんですよね。
清水 そうそう、おっしゃるとおり、大きな誤解がありますよね。僕が学んだポイントは3つあります。
誤解されやすい「インド占星術の特徴」
1
伝統的なインド占星術師は、モダン西洋占星術の「太陽星座占い」のような読み方をしません。
そのため、太陽星座占いの結果を、西洋とインドの両方のホロスコープで比較することには、意味がありません。2
「木星が水瓶座にある人は、○○である」みたいな読み方も、まったくないわけではありませんが、モダン西洋占星術ほど重視されていません。
少なくとも私がインドの学校に在籍している間、そういうふうに読んでいる場面を、一度も見たことがありません。3
特に日本で多いと感じるのが、「アセンダントがどの星座にあるかを元に、モダン西洋占星術の星座の象意をそのままインド占星術に持ち込んで使うこと」です。
そういったことも、インドでは一切ありません。考えてみればあたりまえのことで、モダン西洋占星術の知識をわざわざ持ち込む必然性とメリットは、全くありません。そんなことしなくても5000年間、インド占星術は問題なく使われてきました。でも、日本ではインド占星術にモダン西洋占星術を組み合わせて使われてしまっています。それは、あくまでも占星術者側の都合の問題であって、占星術に問題があってそうしなければならないということではありません。
田中 現代西洋占星術の判断法を、インド占星術に当てはめること自体、無理がありますよね。
そもそもインド占星術では、現代西洋占星術の「太陽星座占い」のように、太陽だけで性格を判断したりはしません。あくまで、全体を見て判断します。それは、西洋伝統占星術であっても同様で、太陽を重視しすぎたりしません。
また、現代西洋占星術の星座(サイン)の象意は、西洋伝統占星術とも違って、心理傾向や性格判断に関するものが目立ちます。17世紀まではそういった記述はあるにはありますけど、容姿であったり、場所などの記述が多くを占めていました。
清水 このアセンダント(ホロスコープの12のハウスの最初の起点)の星座の象意をもとに、パーソナリティや職業の傾向まで読み取ることについて、苦い思い出があります。
インドから日本に戻って来てまもない2014年頃、こんなことがありました。
相談者を鑑定の際、頼まれもしないのに親切心からわざわざ時間をかけて、その人の誕生時刻を「時刻修正」したんです。ホロスコープ上で観たとき、人によっては、誕生時間が手前や後ろにずれ込むことがあり、それを正確な時刻へと修正する必要があるからです。
そして、「あなたのアセンダントは天秤座じゃなくて蠍座ですよ」と教えてあげたんです。するとその女性は驚いて、「いいえ、私は蠍座人間なんかじゃありません」と言って、アドバイスを断わりました。
どっと疲れましたね。「おいおい、そこから説得しなければいけないのかい」みたいな。
「“私は○○座の人”みたいなイメージが、日本のインド占星術の世界にすでに広まっているんだなぁ」と実感した瞬間でした。
田中 その方は、現代の西洋占星術での「蠍座の人の性格やイメージ」をすでに持っていたんですね。
「蠍座人間なんかじゃ・・・」というところから分かるように、あまり良いイメージをお持ちじゃなかったんでしょう(笑)。蠍座は決して悪くはないんですが。
清水 結論を言うと、インドの場合、星座よりもハウスが重要です。「アセンダントがどの星座か?」じゃなくて、「どの惑星がどのハウスを支配して、どのハウスに在住しているか?」なんです。
他にも、テクニカルな面での特徴を言えば、他の占星術にはない技法が多いです。分割図、ダシャー、ヨーガ、アシュタカヴァルガ、チャクラとか。
これらの要素が、占う際のクリンチングポイント、決定打になったりするわけです。
他には、ありとあらゆるテーマの相談に応じられるという包括的な面も大きな特徴で、「アパラ(実用)」と「パラ(スピリチュアル)」の2つに分類されています。
◆アパラ/日常的ないろんな問題解決に役立てるもの。
◆パラ/教養や精神性に関するもの。
インド占星術は、この部分がすごく豊かです。ヒンドゥイズムと密接に関係していて、たとえば思想や哲学系などの答えが出ないようなテーマでも、大きなヒントを与えてくれます。
個人的なことだけでなく、宇宙に関する事柄にも大きなヒント、示唆が得られます。これは大きな特徴ですね。
相談者を怖がらせることなく最良の選択へと導く
田中 リーディングをしていて、悪い結果が出た場合、どう伝えますか?
清水 ラオ先生がよくおっしゃっているのは、「相談者を怖がらせないようにすることを第一とする」ということです。
たとえば、がんになる可能性がある場合、医者は本人に伝えるとは限らないですよね。ラオ先生の場合、家族に伝えることはあっても、本人にはそれを伝えない場合もあります。
田中 なるほど。解決策などは?
清水 ヨーギや聖者は解決させるための技法を持っているかもしれませんが、「占星術師はそういう立場にはいない」、というのがラオ先生のスタンスです。
そこはハッキリしています。ただ、相談者が“問題を自分で作り出している”という場合もあります。そういうレベルの問題であれば、解決方法や賢明な選択を提案できます。
たとえば「子供が大学の進路で理系にするか文系にするか」といった場合や、「病気がこの頃から良くなる、この頃まで治りにくい」といったことは、インド占星術が有効なケースもあります。
もちろん、病気に関してのアドバイスは医者を凌駕することはできないですが。
田中 では、カルマや運命に対して、インド占星術ではコントロールできるんでしょうか?
清水 それはないですね。実はそこが「詐欺師」の入り込みやすい領域です。カルマをコントロールできるのは、グルや聖者といった人たちだけです。
インド占星術師にできることは、あくまで自由意志の範囲で、相談者を「最良の選択に導くこと」までです。
田中 奇跡は起こしてあげられないけど、アドバイスならできると。
清水 そうです。右か左か真ん中か、その中で「これを選ぶといい」という助言をします。もちろん、外れることもあります。大体7割は当たって、2、3割くらいは外れます。
なぜかというと、インド占星術からみると、「人間の情報の2、3割は隠されている」とされるからです。運命と自由意志があり、2、3割は自由意志と言われていますが、“それは決まっていて隠されている”という捉え方なんです。
なぜなら、人間は特に悪い事柄に対し、真実に耐えられないからです。
そのため、聖者の中には、運命と自由意志の境界が分かる人もいるそうですが、たとえ分かっていたとしても、相手が耐えられないであろう情報は言ったりしないそうです。
田中 へえー。でも、そうなると、占い師としてのスタンスも難しいところですよね。
悪いことを言わないと、後で相談者から「なぜあの時、言ってくれなかったの?」とクレームが来そうで。
清水 そうですね。ですから断定せずに、「この時期に気をつけてください」くらいのことは言いますけど。かつて、僕の鑑定後に、がんになった相談者がいて、その指摘がなかったと言われました。
でも、がんというのは診断された段階では、すでに進んでいますよね。ホロスコープ的には、1年前から悪い時期です。
田中 ダシャー的には、すでに悪い時期に入っていたと。
清水 そうです。占星術的には、それを指摘するだけで充分なんです。でも、それをどう相談者に伝えるかという部分のテクニック的な問題はあります。
田中 「どう伝えるか」は、コンサルティング能力というか、占いの知識や技術とは別物ですよね。
清水 コミュニケーションのレベルで、占星術の知識がない人との間には誤解が生じやすいです。しかも、「怖がらせない」という前提がありますから、いろいろと難しいですね。
田中 そのうえで、7割以上当てるために少しでも精度を上げようと、皆さん勉強されているわけですね。
清水 それでも8割が限界かな。やはり、「隠されている」部分があると思うので。
田中 皆さん、7割、8割という数字をあげますけど、その根拠はどこから来ているんでしょう(笑)。
清水 僕も知りたい(笑)。
田中 100%というのは、まず聞いたことがないですよね。
清水 でも、無限の可能性の中から7割り当てるだけでも、すごいことですよ。
カルマが示されたホロスコープのハウスは「1・5・9」
田中 インド占星術にとって、カルマとはどういうものですか?
清水 これはもう、イコールです。インド占星術というのは、生まれ変わりを前提としています。生まれたときに、人生の宿命が7割がた決まっているとした場合でも、同じタイミングで生まれたAさんとBさんには、その後の人生に個人差があります。
その個人差がどこから生じるのかは、「過去世」が違うから、ということになるんです。
インド占星術はこの過去世を前提にしていますから、占星術=過去世のカルマが今世に与える影響を見るもの、ということになります。
ラオ先生に言わせれば、「生まれ変わりを認めていない文化や国では占星術は生まれないし、発展しない」そうです。
田中 古代ギリシアのプラトンは、生まれ変わりを認めていますしね。
清水 インド占星術では、生まれ変わりと宿命は一体であると考えられています。生まれ変わりやカルマといった思想や、ヒンドゥーイズムの表現形態のひとつなんです。
田中 カルマが、ホロスコープに現れているという考え方ですね。カルマに関するハウスもありますよね。
清水 過去世のカルマなら「5ハウス」、現世のカルマは「9ハウス」です。1・5・9のハウスが功徳を表しています。
田中 なるほど。例えば、9ハウスの支配星を読み取る場合、本来なら良い意味なのに、現世の行いが悪いと9ハウスで悪いことが起こる、というような解釈でいいんですか?
清水 実際には、今生の功徳と言いつつも、過去世もかかわってくるんです。今生の功徳とは、それを行うことで改善が効くことなどを表します。
9ハウスに関する惑星のダシャー(惑星期間)の時は、「祈り」や「マントラ」が効きます。それが、今生の功徳になるからです。だけど、5ハウスに関する惑星のダシャーは、なかなか変わりません。
田中 理由は、過去世だからですか?
清水 そうです。過去世から持ち越してきたことが人生にかかわってくるので、根が深い問題です。人生では、身に覚えのない出来事って、起きますよね?
田中 起きますよね、突発的に。
清水 それは、過去世のカルマに起因していると思われます。
占いの精度と占い師の人格の関係
田中 占い師の人格と占いの精度の関係をどう思いますか? 人格が悪くても、精度が高いことはあると思いますか?
清水 占い師になるのに、「適正な星のコンビネーションを持っているか?」という捉え方がありますよね?
田中 ありますね。
清水 それを満たしていれば、人格はあまり悪くはならないと思います。具体的には、木星が強く、水星が無傷で10室に絡んでいなければいけない。
加えて、8室、10室、12室が傷ついていてはいけない、などですね。
これはある意味、人間としてのモラルや犯罪を犯す傾向にかかわってくる条件とも言えるそうです。詳しくは明かせませんが・・・。
そうすると、人格の悪い人はそもそも占い師としてはダメ、という話になってきます。
田中 人格が悪ければ、精度が高くなることもないと?
清水 そうですね。よく「ダシャーが悪いと、悪い人が寄ってくるし、鑑定が当たらないと言われる。ダシャーがいいと人脈に恵まれるし、鑑定も割と当たる」と言われます。運気と鑑定結果には、関係があるんでしょう。
インド占星術の場合、精度を上げられるかどうかは集中力にかかっています。すごく多角的に見ていくので、調子のいいときでないとできません。調子がいいというのは、メンタルも含めてです。
だから、精度の高さと人格、メンタルの良さの間にある種の相関関係が成立すると思います。
田中 では、鑑定とお金の関係はどう思いますか?
清水 ラオ先生もあまりはっきり言っていませんが、実は「カルマの交換がある」ようです。なので、先生は、絶対にお金を取らないです。
田中 「お布施」ならいいんですか?
清水 相談者が置いていく分には、いいみたいです。ラオ先生がちょこっと言ったのは、「お金を取ると、相手のカルマを受ける」ということでした。
田中 相手のカルマをもらう?
清水 20%かな、もらっちゃうんです。
田中 じゃあ、占い師は鑑定しない方がいいんですか?
清水 ラオ先生は、聖者から「鑑定数は減らして、研究した方がいい」とアドバイスされたそうです。
田中 ラオ先生は、官僚としての収入があったからいいですが、占い師たちにとっては厳しいですね。
清水 2000年までは、ラオ先生は生徒にお金を取ることを禁じていました。
でも、今はだいぶ、その辺は柔軟になっています。「お金を取ってもいいけど、正直にやりなさい」という方針です。「万が一、人をだましたりすれば、それは全部自分に返ってくる」と教えています。
田中 そうですよね。生活のために占い師はお金を取らざるを得ませんが、あまりにも高すぎる金額はどうかと思いますね。
清水 ラオ先生が一番怒っているのは、充分に勉強しないでやっている占い師に対してです。
インド占星術における開運法は「マントラ」と「奉仕」
田中 インド占星術の開運法は、マントラや宝石を使うことが有名ですが。
清水 はい。ラオ先生は開運の処方としては「マントラ」と「奉仕」の2つを挙げています。
田中 奉仕もですか。
清水 困った人を助ける慈善活動ですね。インド占星術の原典である「ブリハット・パラーシャラ・ホーラ・シャストラ(BPHS)」では、マントラ、奉仕の2つだけが開運のための処方なんです。
ラオ先生は、こと処方に関してはBPHSに書かれていないことは教えないので、「宝石を使った開運術を学校で教えるのは、まかりならん」と言っています。
宝石って、お金と結びついてしまうので、そこは厳しく否定しているんです。
僕も鑑定で「開運には100万円のエメラルドを買う必要があると言われているけど、買った方がいい?」と相談されたとき、迷わず「絶対に買うな」と言いました。
田中 インド占星術=宝石というイメージがありますけど。
清水 でも、古典には宝石のことは一切書かれていないんですよ。
僕の推測ですが、きっと宮廷付きの占星術師などが、高価な宝石を所有している王侯貴族から「どの宝石を身に付ければいいか?」と聞かれるので、それに答えていたんだと思います。
田中 じゃあ、誕生月の宝石を持っていても、あまり意味がないんですか?
清水 それははっきりわかりませんが、古典などの権威的な裏付けがないということと、たとえ効果があるとしても、その正確な運用法が分からないことがあります。
そして何よりも、詐欺などに使われて多数の被害が報告されていることから、教えるに値しないということだと思います。
田中 でも、奉仕で開運できると?
清水 基本的には、ヨガもアーユルヴェーダもインド占星術も同じで、「サットヴァ」の要素を増やすことが開運に向かいます。
サットヴァとは、3つのグナ(性格)のひとつで「無知を取り除く知識と、その結果としての幸福」を意味し、「上昇・浄化のエネルギー」です。
それに関する教えの一つに、聖典『バガヴァッドギーター』の中に「ジェントルマンと付き合いなさい」といったものがあります。そうすることで、サットヴァ性が高まって運が良くなると考えられています。
その他には、「奉仕」「マントラ」「バジャン」。
田中 バジャンとは?
清水 聖者を称える歌です。
これらが奨励されていて、それをすれば、人生でのサットヴァ性が優位になり、開運すると教えています。
だから、あまり難しいことではないです。ラオ先生が占星術をやっている目的はいわば、人々にマントラやバジャン、奉仕などを通して幸福になって欲しいからです。
そうすることで、できるだけ多くの人々のサットヴァ性を高めさせたいわけです。
サットヴァ性が優位になると、「シンプル・ライフ」になり、少ないもので満たされる人生になります。不安や恐怖もなくなり、必要なことに集中できるようになって、深い瞑想に入っていけるようになるとされます。
田中 ほぉ〜。
清水 女性の場合、変な男が寄ってこなくなり、変なモテ方をしなくなるそうです。
田中 あはは。
インド人の生活と深く結びついているインド占星術
田中 インド人の生活に、インド占星術はかなり深く入り込んでいますか?
清水 はい。インド占星術からの情報は、毎日の生活に欠かせないものですね。今日は何の日、というのが毎日、いろいろと決まっています。
インドでは、プロの占星術師の他にも、パンディジと呼ばれる僧侶に相談をします。パンディジのところに行くと「いつ結婚するといいか?」など、暦を見ながらいろいろと相談に乗ってもらえるんです。インド人は、だいたいホームドクターならぬお抱えの占い師を持っていますね。
田中 なるほど。
清水 パンディジは、必ずしもプリディクション(予測)は行いませんが、いわゆる「パンチャーンガ」と呼ばれるインド暦に通じている人たちなんです。
田中 インド占星術は、独学でも習得できますか?
清水 インドでは「独学しました」といってもおそらく通らないですね。占星術はそんな軽いものだとは一般に思われていないからです。
たとえるなら、病院に行って「先生はどこの大学で医学を修めましたか?」と聞いたのに対して「家庭医学書を読んで独学で医学を修めました」と言われたら、皆さんどうしますか? 受診せずに、そそくさと帰って行きますよね。そういう感じです。
田中 ということは、インドでは占星術家はかなり権威があるんですね。
清水 権威というよりも、それほど広範で体系化された知識があって、その習得と運用にはそれなりの努力と時間と訓練が必要であると理解されていますね。
僕がインドに来た理由をインド人に聞かれて「ジョーティシュ・シークネ・ケリエー(ジョーティシュを学ぶために)」と答えると、いつも彼らから驚きとともに感心されました。「そんな難しいことを学んでるの~」みたいに。
日本では独学の占いでも通用するでしょうけど、インドでは通用しません。誰から、もしくはどこでインド占星術を学んだのかが、はっきりと言えるようにしておかないと。
だから、インドの場合、「パランパラ(系統)詐欺」というのがあります。「私が習った先生のルーツをさかのぼれば大聖者のだれそれに行き着く・・・」と嘘をついて集客する人たちのことです。
「誰から学んだか?」は結構、重要なポイントです。というのも、インド占星術には、書物からでは学べない、隠された情報がいっぱいあるからです。基本的にはシークレットなんです。
田中 その点でラオ先生は、どこまでオープンにしていますか? テキストなどは?
清水 最初の頃は、テキストはもちろんなく、ノートをとることはおろか、机の上に手をのせることも許さなかったそうです。そういう伝統的な教え方のラオ先生から、直接占星術を習った大先輩が自慢げに話すのを聞いたことがあります。
でも、僕なんかは最初からビデオを撮っていましたから、不謹慎きわまりない(笑)。
田中 あはははは!
清水 ほんと、僕はどうしようもない人間で・・・、飛び級で入るし、ビデオは撮るしで。
学校の普通の授業は、シークレットな内容はないですが、ラオ先生の授業はシークレットな情報だらけです。その理由は、彼がヨーギーやスピリチュアルな人たちから、「誰にも言うなよ」と言われながら、教えられてきたからです。
田中 ところで、インドではインド占星術の流派って、どうなっていますか? ホロスコープチャート自体、北インド式と南インド式で全然違ったりするじゃないですか。
清水 表千家VS裏千家、みたいな対立構造などはありませんが、地域それぞれのインド占星術があります。たとえば、ヒマラヤ地方、南インドのケララ州など、それぞれ独自の技法を使っていたりします。
田中 地域性があるわけですね。
清水 官僚だったラオ先生は、60歳になるまでの間、カシミール地方とケララ州以外はすべて赴任しているんですよ。
田中 へぇー、そうなんですか。
清水 しかも、その地域の聖者や有能な占星術師たちと、交流してきているんです。だから、ラオ先生はすごくバランスが取れています。
田中 インド全般のインド占星術を知っているからですね。
清水 そうです。彼が運営するBVBには、インド中のインド占星術の叡智が集約されています。
田中 ローカルのルールが、たくさんあるんですね。
清水 そうです。得意不得意があって、ヒマラヤだと、ヨーギニーダシャーを使います。東インドはバルシャハラ、南インドにはプラシュナという質問占星術で、貝殻を使ったり。
田中 貝殻を使う占いもあるんですね(笑)。
現地に暮らして知った「アガスティアの葉」の実状
田中 かつて、「アガスティアの葉」が日本で大ブームになりましたが、どう思われますか?
清水 5000年前に書かれたもの、というふれ込みは違うでしょうね。せいぜい、数百年前くらいに書かれたものではないかと思います。乾燥させたヤシの葉に書かれていますが、そんなに持つものではないので。
誰が何の目的で書いたかは、わからないとされます。
田中 流派としては?
清水 ナーディー占星術と呼ばれます。アガスティアの葉自体は「ナーディー文献」といって、それを見に来るであろう人の人生が書かれている、とされています。
田中 ええ。
清水 イギリスの植民地時代に、ある寺院から大量のヤシの葉に書かれた古文書が発見されました。そこには科学などいろんな分野の文献があって、ほとんどはイギリス政府が本国に持ち帰りました。
ところが残された役に立たないと判断された文献の中に、ナーディー文献、つまりアガスティアの葉があったんです。不思議なことに、日本人の名前なんかもその葉っぱに書かれているんです。
実は、僕も見てもらいましたが、(母親の名前である)michikoとか書かれていました。その葉っぱを記念にもらって、他の場所でも読んでもらいましたけど、名前は間違いなく書かれていました。
田中 書かれていたとは、すごいですね。
清水 日本では「アガスティアの葉」が有名ですが、インドに行けば「シバの書」など、地域ごとにいろいろあって、地ビールみたいなものなんです(笑)。
でも、当たる当たらないがあるんですよ。総じて過去や現在のことは当たることもあっても、未来のことは当たらない。どちらかと言えば、霊能力のような気がしますけど。
田中 昔、清水さんから聞いて納得したのは、「現在と過去をよく当てる霊能者であっても、未来が当たるわけではない。未来を当てるのは能力が違う、とインドでは考える」ということです。
清水 インドの考えだと、「アストラル」と呼ばれる霊的な世界があって、そこにつながって情報をもらうのが、霊能力なんです。でもその場合の「アストラル」はかならずしもレベルが高いわけではなく、未来もわかる「アーカッシュ」(アカシックレコード)までは届いていないことが、ほとんどだったりするんですね。
田中 その意味では、占星術の方が未来は当たりますか?
清水 ラオ先生の結論は、「未来に関しては占星術の方が当たるのではないか」ということでした。僕もそう思っています。
未来の占いは科学になっていく
田中 では、最後に占いの未来についてどう思われますか?
清水 これはラオ先生の考えで、僕も同じように思いますが、科学になると思います。
彼にはこういう確信があったから、アメリカに行ったんです。アメリカは新しいもの好きで、正しいと思ったものはアメリカを中心にして世界に広がっていく。
そう思って、ラオ先生は92年から95年まで5、6回アメリカに渡って講演をしました。それにより、ラオ先生はアメリカで大ブームになったんです。
田中 実際、イギリスでは占星術を歴史的に研究する大学があり、北京大学でも術数文化を研究対象にする流れです。あくまで、文化として研究するということですが。
インド占星術の日本での状況はどうですか? 勉強する人は増えていますか?
清水 僕の周りでは増えていますね。
田中 優秀な生徒さんが増えてきていますよね。僕も、インド占星術が日本で発展することを願っています。
おまけのQ&A 教えて、清水さん
──インド占星術の原典「ブリハット パラーシャラ ホーラ シャストラ(BPHS)」は、いつ頃できた書物なのですか?
詳しいことはわかりませんが、5千年前くらいと言われています。口伝だったものが19世紀に編纂されたなど、諸説あってよくわかりません。
イギリスは植民地統治することで、英語を普及させる一方で、サンスクリット文化を根絶やしにしようとしたんです。これはイギリス議会の議事録が残っているそうです。
ですからインド人たちがヒンドゥ文化を守ろうと、必死に抵抗し、その流れの中で編纂が進んだ可能性があります。──普段からインド占星術で良い日時を選んで行動したりしますか?
それはしないですね。ただ、重要な日に関しては慎重に選びます。
でも、絶好の日時はそう簡単に見つかるものではありません。悪い日を避けるというか、最悪を避けるという使い方でいいのではないかと僕は考えています。
完璧な日時はなく、最善を求めると30年かかったりするという話があるくらいですから(笑)。あるときムフールタ(適切な時を選ぶこと)について質問したら、ラオ先生が面白い物語をしてくれました。
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ある聖者が結婚しようと思って、奥さんを探していたら30年かかってしまいました。そして次に、結婚式を挙げるのに良い日取りを探しているうちに30年が経過し、とうとう奥さんが死んでしまいました。
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そういう話です。
ですから最悪を避けてベターを選ぶことができればそれで良し、と思います。でも、ムフールタよりもダシャーが優先されるので、宿命を超えることはできません。
つまり、開運といえるほどの効果はもともと期待できません。世間でそういう効果を期待させるのは、そう言わないと売れないからという大人の事情ですよね。
清水俊介
しみずしゅんすけ/インド占星術研究家、JJS代表。北海道大学博士課程修了(RhDホルダー)。2000年頃からインド占星術を学びはじめ、2008年末から2014年までBVBに在籍し、KNラオのクラスや自宅で直接指導を受ける。2014年5月に帰国し、現在は、後生に残るような本物のインド占星術のインフラを日本に構築中。
■受賞歴/ラメーシュ・チャンダー・チョーダリ・アワード受賞2回(BVB, 2014と2013)、サロージ・メモリアル・アワード受賞(BVB, 2010)
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田中要一郎
たなかよういちろう/占術研究家。芸人。1974年和歌山県生まれ。早稲田大学卒。高校時代より占いに興味を持ち、研究を始める。西洋伝統占星術、インド占星術、七政四余など古典をベースとした東西の占星術を比較研究する。五術研究家の阿藤大昇の門下で「三式、三典」を伝授され、香港の世界五大風水師の筆頭であるレイモンド・ローからは風水を伝授される。レイモンド・ロー公認風水師。占術は日本のみならず中国、インド、欧米の諸師にも学ぶ。主な占術は、「西洋伝統占星術」「子平」「インド占星術」「風水」「易」「タロット」「人相・手相」「姓名判断」など多岐にわたる。
翻訳書籍は『子平推命基礎大全』(梁湘潤著、太玄社)、『クリスチャン・アストロロジー第1&第2書』『クリスチャン・アストロロジー第3書』(いずれもウィリアム・リリー著、太玄社)。
田中要一郎の占術世界
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ブログ
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『クリスチャン・アストロロジー第1&第2書』
ウィリアム・リリー著/田中要一郎訳/太玄社