山田 博/人間本来の力に目覚める 「森のリトリート」【『StarPeople』バックナンバーより】

 

日本各地で、心身のコンディションを整える場「森のリトリート」を開催している、山田博さん。『StarPeople』バックナンバー63号「森の中で感覚を解放し、人間本来の力に目覚める『森のリトリート』」よりご紹介しましょう。

ハードな仕事で失った「野生」を取り戻した

ーー「森のリトリート」を開催するまでの道のりを教えてください。

私は大学を卒業した後の17年間、サラリーマンとしてかなりハードに働いていました。けれど、30歳を超えたあたりで、自分も会社もこのペースだと将来どうなるのだろう、という疑問を持つようになったんです。その時期にコーチングに出合いセッションを受けることにしました。
すると、自分の将来は何か自然に関すること、もしくは家族関係のことをやりたいという思いが湧いてきたのです。その後、自分自身もコーチングを学んでビジネスやキャリアのコーチとして独立しました。

しかし、2年ほど経ったある日、突然電車の中で心臓の発作が起きて倒れてしまったのです。そして、意識不明のまま救急車で病院に運ばれる途中、不思議な事が起きました。突然、自分が白い雲の中を飛んでいる感覚があり、「もう自分は肉体を離れるんだな」と思いながら雲の先を越えた瞬間に、ふわりとした感覚とともに、病院で目が覚めたのです。
その後、あるクリスタルヒーラーの方のセッションを受けた際「あなたは、コーチングで相手の負のエネルギーをそのまま受け止めてしまったから、心臓が破裂しそうになったのだ」と教えられたのです。それを聞いてとても納得がいきました。そのときに、負のエネルギーを上手に扱う方法も学びました。

「森のリトリート」を開催している、山田博さん。

ーーやっと理想の仕事に出合ったと思った矢先のことですね。

ええ。実は、この出来事とは別にもうひとつの流れがありました。倒れる前の年に、ネイティブアメリカンが自然の中で生きる知恵を教えるスクールに参加したことがありました。そこでの体験から、人が自然とともに生きる知恵の深さに感銘を受けていたのです。
そこで「森で暮らしたい!」と家を探しました。するとある夜、夢に森の家が出てきました。その数日後に、その夢で見たとおりの家が山中湖で見つかったんです。すぐにその家を借りて、以降は、東京でコーチングをして森の家に帰る生活が始まりました。
森で暮らし始めてしばらくすると、自分がどんどん野生化していくのに気づきました。嗅覚が鋭くなったり、動物の気配がわかったり、かすかな風の流れもわかるなど、もともと人間が持っていたセンサーが蘇ってきたのです。自然治癒力や免疫力が高まるのも実感しました。同時に、コーチングの感性もどんどん高まっていったのです。

その中で私は、今までは気づいていなかったあることが気になり始めました。コーチングを通してクライアントたちが自分の方向性を見つけ、豊かな人生を送る姿を見ていると、達成感はあるものの、彼らから何か“そこはかとない不安”を感じるのです。本人たちはそれにはっきりとは気づいていません。その不安がどこからくるのか、私にもまだわかりませんでした。

そこで、森の素晴らしさを体感していた私は、クライアントを森に連れていきたいと思ったのです。実際に森に入ると、2日くらいで最初は堅い表情をしていたクライアントの顔が柔らかくなるのがわかりました。子どものような飾り気のない笑顔になる彼らを見ると、それまでのそこはかとない不安が解消されていくのが感じられたのです。
また、本人たちも「大丈夫な感じがする」「安心した」と口ぐちに言うのです。そのとき、これは何か重要なキーワードなんだな、と気づきました。

ーーそこから、森のリトリートが本格的に始まったのですか。

本格的にプログラムにしようと思ったきっかけは、2011年に3・11が起きたこと。
これからはいよいよ人々が自然によりダイレクトにつながる必要があるんだなと、決心が固まりました。それも、観光としての自然観察ではなく、自然の中にどっぷりと浸かって森そのものを体験する、そんな場所が必要なのだと考えたのです。

 

森の中ではゆっくりと、静かに心身が整う

ーー森のリトリートの内容を教えてください。

基本的には2泊3日の日程で行っています。まず、初日の午後は各々が「森に慣れる時間」を設けます。これは、都会のモードを森のペースに合わせる時間です。また、初日には、森の中で滞在中の自分だけの場所を見つけてもらい、以降、一人の時間を過ごす際は、そこで過ごしてもらうようにします。
みなさんにとって自分の場所は、森のつながりを感じられるとても大切な場所になっていきます。まるで自分の巣を作りあげるような感じで快適な場所を作っていますよ。

初日は、身体は森にいるのだけれど、まだ意識は都会モードから抜けられません。歩き方、喋り方、食べ方などがまだ速いのです。そして、誰もがついつい“すること、やるべきこと”を探してしまいます。滞在中は、時計やスマホもこちらでお預かりするので、“何もしないをする”ことに困惑してしまう人も多いのです。
考えることにも飽きてくるので最後にはみなさん、寝てしまう。けれども、目覚めたときには、すっかり無意識レベルで森のモードにチューニングされているのです。同時に、大地の上で裸足になったり、転がったり、そのまま寝たりすることを通して、都会のモードは完全に抜けていきます。自然のリズムの中で食べる、寝るをくり返していると、どんどん野生に戻っていくのです。

こうして、2日目で完全に森のモードになった頃から、本当のリトリートが始まります。リラックスしながら五感を開き、心身を整え直すのです。一人でいる時間は、貴重な自分との対話の時間にもなります。
夜は焚火を囲む時間を設けてみんなで語り合います。この焚火を囲む対話タイムでは、2日目あたりから、意識が内側に向かい内省がはじまることで、発言の内容もどんどん深くなります。また、森のモードになることで、未来や過去に意識を引っ張られずに、“いまここ”に意識が向くようにもなります。

ーー森の中で一人ひとりが気づきを得るのですね。

はい。それぞれが森の中で一期一会のインスピレーションを受け取ります。私はこれを“サイン”と呼んでいます。初日に森に入った時に、目を閉じていちばん心に残ったことを語ってもらいます。それが、その人が最初に森から受け取ったサインなのです。ある人は小さな苔だったり、巨木だったり、木漏れ日だったり。そのときは、なぜ心に残ったのかは説明できないのですが、それがそのタイミングでの森からのプレゼントなのですね。
3日目くらいになると、なぜあのとき、それが目に止まったのかがわかる瞬間がやって来るのです。
ある人は、来る途中に鮮やかな緑色の芋虫を見ていたのですが、3日目に自分はいま、蝶になる時期が来ているのだ、ということに気づいたのです。それまで、次のステップへの踏ん切りがついていなかったその方は、このサインから将来への扉を開くことができました。

 

ーーちなみに、森のリトリートを行う季節や場所などは?

オールシーズン実施しています。初期は、専門的な装備も必要なので冬は開催していなかったのですが、真冬の森は素晴らしく、とても人気が高いのですよ。冬の森では、まさに何もない“無”の世界を味わうことができます。景色は雪で真っ白、凛としたピュアな環境の中、ごまかしようのない自分と向き合うことになります。
また、定期的な開催地は山中湖と那須ですが、地方でのスポット開催も行っています。最近では北海道の長万部の近くのブナの北限地で冬のリトリートも行いました。
宮崎の高千穂の近くで行った際は、実際に神さまの存在を感じましたね。岡山では水源地からのピュアな水に触れたり、その他、和歌山、長野、今年は佐渡や石垣島など、島でも行います。

多くの人が抱えている〝そこはかとない不安〟の正体

ーーところで、コーチングのクライアントが感じていた“そこはかとない不安”の原因は何だったのでしょうか。

山田 私が思うに、それは何か不安な要素があるのではなく「安心がないところからくる不安」なのではないかと思います。そして、その安心とは“大地とのつながり”から得られるものだと思うのです。森で過ごすと、人間は動物であり、大地からの恵みによって生きていけるのだという実感が湧いてきます。だから、人々は森でその感覚を取り戻すと、安心するのです。 たとえば、都会での暮らしは電気や水道などのライフラインが止まったら生きていけません。物理的な糧が途絶えたら死ぬのではないかという不安を、誰もが無意識のうちに心の奥深くで感じているのです。
しかし森の中では大地とつながり、自分たちも地球の一部であることを感じることができるのです。自分たちは母なる大地から生まれてきた、という実感があり、地球という母を大事にしたいと思えるのです。母なる大地の上でそんな思いを森に受け取ってもらうことで、あまりに安心して涙を流す人もいます。

ーーこれからの展望は?

もっと人々が森、そして大地とつながる機会を増やしたいですね。
今、私自身は、こうして都会で過ごしていても、感覚的には森の中にいるような状態を同時に感じることもできます。都会のモードと森のモードを行き来するような感覚、つまり“自分の中に森がある”状態を作れるのです。
よく、「森のモードに慣れてしまうと都会のスピードで生きていけないのでは」と心配する参加者さんもいますが、実際はその逆。心の中に、静かで安定した森を育むことで、過去の後悔や未来の不安にとらわれず、やるべきことに集中することができます。仕事や日常生活の中で何が起きても慌てずに取り組めるのです。
私自身、ハードに働いていた会社員時代や独立直後より、森に親しみ始めてからのほうが仕事の生産性は上がっています。
この能力は、私たちがもともと持っていたもの。自分の中に森を育むことで、それを思い出すことができれば、人々はどこにいてもより幸せで豊かな暮らしができるのです。そして、私はそのためのきっかけになれればと思っています。
(この記事を書いた人/西元啓子)

 

山田博
やまだひろし/株式会社森へ代表取締役、株式会社ウエイクアップ チーフケアテイカー。2006年、「森のワークショップ~Life Forest~」をスタート。2011年には、人が自然や大地とつながり、未来まで地球ですべての生命と共に平和に暮らすという願いのもと、株式会社森へを設立し、「森のリトリート」を開始。
http://www.totheforest.jp

 

『森のように生きる』
山田博 著、ナチュラルスピリット
1,450円+税

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