今回は、コロナ以降の世界の状況を簡単に見通してみたい。
日本を含め、新型コロナウイルスの蔓延で実質的に厳しいロックダウンを実施していた欧米諸国では、蔓延のスピードが穏やかになっていることから、各地で経済活動が次第に再開されている。
まだまださまざまな規制は残るものの、これで経済は一気に回復するとの期待も強い。
社会不安によって世界的に拡大する抗議運動
しかしながら、アメリカを中心とした欧米諸国で、混乱状態が拡大している。5月25日、ミネソタ州ミネアポリス市で無防備のアフリカ系アメリカ人、ジョージ・フロイド氏が白人警官によって窒息させられ、殺害されたのだ。
この事件が発端となって、全米50州すべての650を越える都市や地域で、一部には破壊活動を伴う激しい人種差別抗議デモが起こった。
それはロンドン、パリ、ベルリン、東京、ソウルなどの世界各地に拡散し、特に欧米諸国では数万人規模になっている。
この運動は収まるどころか、6月13日、ジョージア州アトランタ市で黒人のレイシャード・ブルック氏が射殺されたことにより、さらに激しくなった。もはや、手がつけられない状況になりつつある。
一方、日本ではあまり報道されていないが、人種差別抗議デモに反対する“極右の抗議運動”も非常に盛んになっている。
全米31州では、即刻の経済活動の再開を求めた激しい抗議が、極右の主導で始まった。これも欧米各地に拡大し、ロンドン、パリ、ベルリン、ローマなどの諸都市では、行動規制に反対する極右による激しい抗議デモが起こっている。
「人種差別抗議デモ」が左派系の運動なら、「行動規制反対デモ」は右派系の運動だ。これらは暴力的に対立しあう、水と油の関係だ。
こうした社会不安が、アメリカを中心にして欧米各地に急速に拡大しつつある。
その成り行きが、コロナ以後の社会の状況を決定することにもなりかねない。社会が一層不安定になり、政治も経済も大きな影響を受けるという図式だ。
10年前に歴史学者が見出した「アメリカの内乱パターン」
意外にも、この状況を10年近く前に予測していた歴史学者がいた。ピーター・ターチンである。
コネチカット州にあるコネチカット大学の教授で、生態学、進化生物学、人類学、数学を教えている。生態学と進化生物学の手法に加え、非線形数学という現代数学のモデルを適用することで、歴史には明らかに“再帰的なパターン”が存在していることを発見した人物だ。
ターチンが明らかにしたのは、“ローマ帝国やフランス、明朝などの近代以前の大農業帝国には、帝国の盛衰にかかわる明白なパターンが存在する”ことだった。
それは、人口、経済成長率、労働賃金、生活水準、支配エリートの総数などの変数の組み合わせから導かれる、比較的単純なパターンであった。
それと同じようなパターンとサイクルが、近代的な工業国家である現代のアメリカにも適用可能であるとしている。
2010年にターチンは、『平和研究ジャーナル』という専門誌に、「1780年から2010年までの合衆国における政治的不安定性のダイナミズム」という論文を寄稿した。
この論文で調べられていたのは、アメリカが独立して間もない1780年から2010年までの230年間に、暴動や騒乱などが発生するパターンがあるかどうかだった。
その結果、農業国から近代的な工業国に移行した19世紀後半からは、約50年ごとに「社会的不安定性」のサイクルが発生していることが明らかになった。