占い師・田中要一郎の占術談義/10回目〈占星術研究家〉 鏡リュウジ:占いが途絶えるなく存続していることで、その人にとっての日常が回復していくんです

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17世紀のイギリスの大占星術師による名著『クリスチャン・アストロロジー』(ウィリアム・リリー著、太玄社)の翻訳を手がけ、ご自身も占い師と風水師としての顔を持つ田中要一郎さん(写真右)。
そんな田中さんが、占い界の重鎮クラスのゲストを招いてスペシャルトークするのが、この企画。
10回目のゲストは、なんと、日本の占星術界をリードする超大物&大人気占星術研究家の鏡リュウジさん。これまでの軌跡やご自身の哲学も含め、盛りだくさんに語っていただきました。
最後のQ&Aでは、新型コロナウイルスのパンデミックに関する見解も。
2人の占術の専門家による、ディープな世界をお届けしましょう。

中学生のときに魅せられたタロットカードの世界

田中 鏡さんとは、僕が翻訳した『クリスチャン・アストロロジー』の本の帯に推薦文を書いていただいて以来のお付き合いですよね。
海外のカンファレンスにも、お誘いいただいたりして。

 公私ともにお世話になっております。今年1月のメルボルンでのカンファレンスのときは、同じ宿で寝起きしましたよね。

田中 そうでしたね! 会場の大学付属のすごく広いアパート式の部屋をとっていただいて、個々の部屋で寝て。今でもよく覚えています。鏡さんはもう、僕の人生のキーマンの一人なんですよ。
これまで、生い立ちなどは伺っていなかったので、そのあたりからお聞きしたいと思います。ご出身は京都ですよね?

 はい、生まれは西陣です。でも3歳頃までしかいなかったので、あまり記憶がなくて。4歳頃から11歳までは桃山で過ごしました。11歳で両親が離婚したので、京都市内の松尾にあった母のアトリエに移ったんです。

田中 アトリエというのは?

 母は日本で最初に「着付け学校」を始めた女性で、着付けのほかにも着物デザインなんかもやっていて、その創作場所としてアトリエを持っていたんです。
そこは3LDKほどの広さがあったので、中学と高校時代はそこで家族と暮らし、大学に入るときに東京にやって来たんです。

田中 そうでしたか。占いを始めたのは?

 10歳か11歳の頃、タロットからです。当時、アニメを中心にオカルトブームだったんですよね。魔女っ娘もののアニメがあったり、『エコエコアザラク』(古賀新一作)や『魔太郎が来る』(藤子不二雄Ⓐ作)というホラーマンガがあったり。
70年代初頭の、まさにオカルトブーム全盛期で。

田中 なつかしい・・・。ユリ・ゲラーも来日しましたよね。

 そうそう。映画では『エクソシスト』や『オーメン』とかが公開されて、ピラミッドパワーも流行りました。そんな中で、自分でもできるものがあると知って「タロット・カード」にハマったんですよね。

田中 どの本から学んだんですか?

 辛島宜夫(からしまよしお)先生の本が最初かな。確かタイトルは『プチ・タロット 恋の十字架占い』(笑)。小学生時代に通った小さな本屋にたまたま並んでいて、タロットカードが付いていたんです。
その頃はカードで占うことにはあまり興味がなくて、タロットカードが醸し出す雰囲気の方が好きでした。オカルティズムへの関心が強い子どもだったのかもしれません。
中学に入る頃には、ウェイト=スミス版タロットを買ってもらって本格的に・・・。

田中 どこで買われたんですか?

 京都の高島屋のおもちゃ売り場(笑)。付属のブックレットは英語でしたから、辞書を引きながら自分で訳して「アーサー・ウェイトはオカルティストで魔法使い」と書き込んで・・・、「現代にも魔法使いっているのかな?」とか、オカルティズムへの関心が高まっていった感じです。

田中 タロット占いをやってみて、「当たっている」と実感されました?

 多少は。でもやはり、占うよりもカードが持つオカルティックな雰囲気の方に興味があったかな。

ユングを学びながらマニアックな占星学にのめり込む

田中 では、占星術との出会いは?

 タロットを始めた直後、中学生になってからです。タロットには、関連惑星についての情報が盛り込まれていますよね?
その意味を知りたくて、糸川英夫先生やルル・ラブア先生の新書を買って、「占星術? なんじゃこれは?」と思いながら読みましたね。

田中 タロットよりも、占星術の方がしっくりきましたか?

 同時進行でした。当時は魔術の世界にもすごく興味があったし。
自分の中の位置付けとしては、「タロット・魔術・占星術」の順だったんですが、今では占星術を中心にいろいろ関心をもっているという。

中学3年生の頃、ハタと気づいたんですよね。「なんで自分、こういう迷信をやっているんやろ?」って。「タロットや星の配置で何かが当たるというのは、どう考えても迷信というか、間違っている。なのに、やめられない。どうしたらええねん?」と思っていたときに、ユング関連の本と出会ったんです。
確か、中3か高1くらいのときかな。

田中 え、中3? すごい早熟ですね。

 占いの本を読んでいると、必ずユングの名前が出てくるでしょう?それで、「これはやらなあかん!」という感じで。
河合隼雄先生の『コンプレックス』(岩波新書)と秋山さと子先生の『ユングの心理学』(講談社)を読んで、すごい衝撃を受けたんです。「なんじゃ、これは? ユング心理学って占いじゃないか!」って。

田中 ユング心理学は、占い同然だと(笑)。

 そうです。やっていることはほとんど一緒だなと。いや、こんな言い方したら叱られるでしょうけどね。でも、本質的なところでは通じるものがあると思う。
それでいて、ユング心理学はまっとうな学問の顔をしているわけだから、「占星術もこれを使えばいいのに」と思っていたら、その後、ユング派の占星術師たちがいることに気づいたんです。

高校生のときに家族でハワイ旅行に行った際には、こんなことがありました。
現地のオカルト書店に立ち寄ったら、店員からリズ・グリーン(ユング派分析家・占星術家)の本を勧められたんです。そのきっかけが面白くて。
一緒にいた母が「この子にお勧めの本はどれ?」と聞いたら、その店員が最初、絵本を持ってきたんですよ。僕が子どもに見えたんでしょうね(笑)。

 

母は怒って「バカにしているの? 手加減しなくていいから、あなたが本当に一番いいと思う本を持ってきて」と言いました。
それで、次に持ってきたのがリズ・グリーンの『サターン 土星の心理占星学』だったんです。

田中 へぇー、お母さんもすごいけど、土星をテーマにした本を選ぶその店員もすごいですね(笑)。そのときに、リズ・グリーンとの縁ができたわけですね。
※『サターン 土星の心理占星学』の日本語版は、鏡さんが翻訳して2004年9月に青土社が刊行。

 そうそう(笑)。他にも、高校生の頃、社会人のオカルトサークルに入っていて、そこで洋書を共同購入するプロジェクトがあって、アクエリアン出版などの文献を入手していましたね。
オランダの占星術家カレン・ハマカーの本とか、後に僕が翻訳することになるリズ・グリーンの『Relating』(邦題『占星学』青土社刊)とか買いました。アマゾンなんかない時代ですから。

田中 えー、高校生のときに!? 専門的で難しい内容だったんじゃないですか?

 当時の僕にはめちゃくちゃ難解で。でも、自宅に京大生の家庭教師が来ていたので、一緒に読んでもらったりしました。

田中 どうりで英語が堪能なわけですね。

高校生のときから開始した雑誌への執筆活動

田中 鏡さんは、かなり昔から雑誌で連載されてきましたよね?

 高校生の頃から、少女向けの占い雑誌『マイバースデイ』(実業之日本社)とか、いろいろと関わっていました。

田中 高校生で、すでに連載を持っていたと!?

 中学生の頃から、気にとめていただいてたんです。少女向け占い雑誌の『ミュー』(サンケイ新聞社)に、占星術の読み解きコーナーがあって、その回答を投稿してたら評価されて、賞とかいただくようになって。

そのうち、今は亡き占星術師のG・ダビデ先生から直接電話が来て、「良かったら東京に来ませんか?」と誘われたんですけど。
「せめて高校は行かせてください」と断ったら、「君、中学生だったの?」って衝撃を受けたみたいで(笑)。
「じゃあ、高校生になったら連載始めないか?」と言っていただいて、高校1年の頃から400字の短いコラムを書き始めました。その延長で、G・ダビデさんには、占星術の解釈についても教わりました。

田中 中学生ですごい状態だったんですね。将来を考えなきゃいけない高校3年生の頃は、先々どうしようと思っていたんですか?

 僕は数学が致命的にダメだったので、国公立は諦めて私立文系を目指そうとしていました。
当時の偏差値ピラミッドの頂点は早稲田大学の政経学部で、たまたま連載させていただいていた『クレープ』の編集長が、早稲田の政経出身だったんです。

そこで、「受験のためのアドバイスをください」とお願いしたら、「そんなところに行ってどうすんだ! 何万人も卒業生がいるマンモス大学行ってもしょうがないだろ」って怒られて。
「語学が得意なんだし、少数精鋭のICU(国際基督教大学)っていう大学があるから、そこに行け」と。

田中 すごいですね、ICUを勧めるなんて。

 今でこそ有名な大学ですが、当時、僕を含めて京都の高校生は誰も知らなかったんです。
それで調べてみたら、「スゴイ大学じゃん、行ってみたい」と思い、結果的にも、東京の大学はICUしか受からなかったんですよ。関西はいくつか受かりましたけど。

田中 それで上京したんですね。

 あ、京都の人は「上京」って言わないんです。「東京に行く」です(笑)。

田中 あはははは。東京に来て早速、出版社に連絡しましたか?

 いえ、その頃はすでに連載をたくさん抱えていたので。出版社のルートを2つ持っていて、ひとつは女性向け雑誌。もうひとつは、作家の朝松健先生経由で、硬めのライン。
朝松先生は雑誌『ムー』(学研)のメインライターだったんです。ところが、「これからは小説一本でいく」と一大決心されて、「代わりにこれを置いていくから」と、『ムー』や今はもうないけれど、『トワイライトゾーン』といったオカルト雑誌の編集部に僕を紹介してくださったんです。

まだ大学生でまともな原稿も全然書けないのに、両編集部にかわいがってもらって、すごくいい勉強をさせてもらいました。
それに朝松先生には、『ユリイカ』(青土社)も紹介していただき、翻訳ものをさせてもらいましたね。

最初に手がけたパワーストーンの翻訳本が大ヒット

田中 ご自身の本を手がけたのは、いつですか?

 翻訳本ですけど、1989年に出版された『クリスタル・パワー』(コニー・チャーチ著、二見書房)です。

田中 どういう経緯で翻訳を?

 アルバイトで「サマリー」を作っていたんです。サマリーとは要約文のことで、洋書をざっと読んで、主だった内容を文章にします。それを編集者に伝え、その本を邦訳する権利を買うかどうかを出版社が決める参考にするというわけ。
サマリーをバイトでやったら、「なんなら翻訳までやっちゃいませんか?」というお話をいただいて。

田中 え? サマリー作成からそのまま翻訳者に?

 そうそう。ほんと、かわいがられてましたよねえ、僕(笑)。そうしたら、その付録付きの本が景気がよかったこともあって、10万部近いヒットになって。
出版って儲かるんだと勘違いして道を踏み外したわけです(笑)。まさかそのあとの人生、ずっと占いに関わるとは考えてもいなかった。

田中 なるほど(笑)。ペンネームはすでに鏡リュウジだったんですか?

 そうですね。

田中 鏡という名の由来は?

 「鏡みたいでありたい」という思いがあって。でも、あまり深い意味はないですね。そもそも大学生の頃は、ずっとやっていくつもりはなかったですから。
「まともな社会人になろう」と思っていて、そうなれるものだと思っていたから。思い上がっていましたね(笑)。

田中 いえいえ、社会人できるでしょう(笑)。あと、リュウジの由来は?

鏡 リュウが好きだったんですよね、なんか。

心理占星術が定義する「魂」にこだわった本でデビュー

田中 では、自著デビューは?

 『魂(プシュケー)の西洋占星術』(学習研究社)。1991年だったかな。

田中 あの本は、「心理占星術」の教科書ですよね。日本初でしたか?

 いえ、すでに岡本翔子先生が『ロマンチック心理占星術』(主婦の友社)を出版されていて。岡本さんの心理占星術は、雑誌でも特集を組まれていました。

田中 鏡さんの本の方は、タイトルに「魂」という言葉が入っていて、ちょっとスピっぽい感じですよね?

 そこは誤解なきようにしたい部分! そもそも、サイコロジーのサイキは「魂」を意味しているんです。
そして僕の本の「魂」は、ジェイムズ・ヒルマンの定義から来ています。彼はユング派の心理学者で、単純な定義にはまらない「こころ」の経験世界を「魂」と呼ぶわけです。
決して今のニューエイジスピリチュアルな人が言うような、明るいだけのものでも、実体的なものでもない。

光栄なことに、僕はジェイムズ・ヒルマンのベストセラー『魂のコード』を翻訳して、あの河合隼雄先生に本の帯用の言葉もいただきました。
ヒルマンと親しいトマス・ムーアの『内なる惑星』も翻訳しましたが、彼らの「元型的心理学」は、ルネサンスの占星術や哲学にインスパイアされているんです。

ヒルマンと親しかった河合隼雄先生も、「魂」という言葉を多用します。つまり、ユング派の人たちは、心理学の中には納まりきらない何かがあると考えるわけです。それは、古代のプラトンやアリストテレスに始まる霊魂論にもつながっていく。
ユングは、その系譜上にあるんです。河合先生にならって、ここでは漢字じゃなくて、ひらがなで「たましい」と書く方がいいのかもしれないですけど。
いずれにせよ、前世とかに関連づけるニューエイジやスピリチュアル系の人がいう「魂」とはかなり違う意味あいの「魂」なんですよね。

田中 魂の~ってなると、どうしてもスピリチュアルなイメージになりますよね。

 まあ、それは仕方ないところもあるけれど、決して安易にシンプルに語れるものではないし、問題を解決するためや、望んだものを「引き寄せる」方法でもない

田中 あはははは。前世がどうのこうのとかね。

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