ヘルメス・J・シャンブの「“在る”の息吹」/vol.15 天国に限りなく近い国

B!

この連載がきっかけとなって生まれた気づきの短編集『プルートに抱かれて』を、昨年発売したヘルメス・J・シャンブさん。
この2月に、意識探求をテーマにした新刊が発売されたばかり!
今回も、ヘルメスさんお得意の“小説タッチの気づきの物語”をお届けしましょう。
※2冊目の著書『道化師の石(ラピス)』も小説仕立てで、独自の世界観を伝えています。

 

苦悩と恐怖を一切終焉させるのための書!
『知るべき知識の全て I 』
ヘルメス・J・シャンブ著/ナチュラルスピリット

 

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天国に限りなく近い国

はるか昔の話である。その国は、限りなく天国に近かった。
地上にいながら天国を見ている者が多く、地獄を見ている者は少なかった。
他者と自分とは同じであって、全く別の存在ではないことを自覚していた。それゆえ、その国には優しさや思いやりがあふれていたのだった。

誰かに何かをすることは、自分自身にすることだ。それを、熟知していた。
音楽はガラスのように透明で美しく、穏やかさと温もりが感じられていた。目覚めながら眠り、その幸福の中でダンスを踊っていた。
無数に存在する数々の小説、その物語には真理の香りが漂っており、誰もがその物語を自分のことのように読むことができた。

小説の物語を読むことができなければ、自分の人生という物語でさえ、まるで理解できない。
そして、理解できないがゆえに、怒りと不平不満の波にさらわれて自己の本性を失い、隣り合う存在、その兄弟姉妹である者たちを攻撃するのだった。
陰陽図のように、限りなく光が満ちているように思えても、この世界にはわずかに“闇の黒点”が残るものである。
そしてやがて、世界はぐるぐると回り回って、光の点を残す闇の世界へと転じ始めるのだった。

教師たちは、その救いの教えを様々な形で世界に残した。やがて朽ちてしまう国の未来を悟り、教えをたずさえて別の国へと渡った。全ての島が沈むわけではない。

幾千年の時が過ぎて、やがてまた一つの、天国に限りなく近い国が作られた。
闇に囚われた国の未来とは自滅であって、何も残るものがない。
廃墟と化した建築物を植物の蔓が覆って、そこに草木が生い茂り、あたかも何もなかったかのように夜空にはキラキラと無数の星たちが輝いていた。意図せずに人工的な灯りが消えると、星空がいつにも増して美しく見えるのは、なんと切ない光景だろう。
人々は、そんなふうに思うのだった。

新しい国には、優しさと思いやりがあふれていた。だからこそ、繁栄し、誰もが自分のことのように他者に手を差し伸べて、ルールはなくとも、自然に協力し合うのだった。

相手の苦しみは、自分の苦しみであった。
相手の喜びは、自分の喜びであった。

賢者たちは、平等の精神を大切にしていたが、人の心がどれだけ邪悪なものかもしっかりと理解していた。それが、この幻想世界の在り方であり、自我の本性であることを認識していたのである。
このような世界が、いくつもの宇宙に、同じようにいくつも存在していた。
無数の宇宙を旅する無数の旅人が、それぞれ自分の信念を投影して、自分の観たいドラマをいくつも体験していた。
終わりがないかのような旅でも、いつか終わりの時が訪れるのが、旅の本性である。自分は旅をしており、どこか安住の地を探しているというのなら、その旅はもう終わることが定められている。

終わりのない旅が、存在するだろうか? 
我が家を持っていない旅人が、存在するだろうか?
私はどこからやって来て、どこに向かうのか?

そんな夢を、私は天国に限りなく近い国の路上で見ていた。手にした小説の中に、このような言葉があった。

心は、信じたことを実現するものである。

つまり、心には形がないということだろう、と私は思った。それなら、夢とはまさに心のことであり、心が夢そのものなら、そもそも心というものは実在などしていないのだ。

すると、とたんに目が覚めて、私は至福の中にいた。手には一冊の書物が握りしめられていた。
夢を現実だと思ったとたん、私は夢の中に入り込んでしまっていたのだった。

 

ヘルメス・J・シャンブ
1975年生まれ。30代前半、挫折と苦悩を転機に、導かれるように真理探求の道に入る。さまざまな教えを学び、寺で修業し、巡礼の旅に出るが、最終的に「全ては私の中に在る」と得心、悟入する。数回に分けて体験した目覚めにより、ワンネス(一つであること)を認識し、数々の教えの統合作業に入る。「在る」という教えは、これまでの師たちの伝統的な教えであるため、師たちの名前を借りて「ヘルメス・J・シャンブ」と名乗り、初著作『“それは在る』を執筆。 その後『道化師の石(ラピス)』『ヘルメス・ギーター』、独自の世界観を小説で表現した『プルートに抱かれて』などを刊行。現在は、ナチュラルスピリットの個人セッションなどで、探求者たちに教えを伝えている。

 

https://twitter.com/hermes_j_s
https://note.com/hermesjs

 

『プルートに抱かれて』
ヘルメス・J・シャンブ著/ナチュラルスピリット

 

『へルメス・ギーター』
ヘルメス・J・シャンブ著/ナチュラルスピリット

 

『道化師の石(ラピス) BOX入り1巻2巻セット』
ヘルメス・J・シャンブ著/ナチュラルスピリット

 

『 “それは在る』
ヘルメス・J・シャンブ著/ナチュラルスピリット

 

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