今回は、2019年に内閣府が立ち上げた「ムーンショット型研究開発制度」をテーマとしてみた。
この計画に関しては、人々を監視下におくためという陰謀論も含め、さまざまな見方があるようだが、最先端テクノロジーの現状を踏まえた論評が少ないようなので、その点を主軸に解説したいと思う。
ロボット・AI化を押し進める「日本のムーンショット計画」
まず、「ムーンショット」と聞くと、秘密めいたSF的な計画のようにも聞こえるが、特にそういうわけではない。
ムーンショットとは、1960年代の初めにアメリカのケネディ政権が、60年代までに月に行くことを宣言したのがこの名前の由来だ。
ケネディーが政権についた60年代初頭は、やっと宇宙への有人飛行が可能になった段階だったので、10年以内に月に行くとは、まさに奇跡であった。
そのような到達困難な目標を立て、その実現を目指すことを「ムーンショット計画」と呼ぶ。
昨年、内閣府が立ち上げた「ムーンショット型研究開発制度」とは、未来志向の困難な目標を実現するための研究開発を促進する制度のことである。
これがどのような制度なのか、内閣府のホームページを参照し、具体的に見てみよう。
次のようにある。
破壊的イノベーション創出に向けた挑戦
●世界各国は、破壊的イノベーションの先導をねらい、より野心的な構想や解決困難な社会課題等を掲げ、研究開発投資が急速に拡大。
●我が国が抱える様々な困難な課題の解決を目指し、ムーンショット型研究開発制度を創設。基礎研究領域の独創的な知見・アイデアを取り入れた挑戦的な研究開発を推進。
要するに「ムーンショット型研究開発制度」とは、困難な社会問題の解決に向けた、挑戦的で独創的な研究を推進する制度である。
これには平成30年度の補正予算で1000億円を計上、基金を造成。令和元年度補正予算で150億円を計上し、最長で10年間支援するとしている。
では、具体的にどのような目標を実現するというのだろうか?
研究制度は、次の7つの目標を掲げている。
ムーンショット目標
(1)
2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現。(2)
2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現。(3)
2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現。(4)
2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現。(5)
2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出。(6)
2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現。(7)
2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現。
アバターやロボットの最新テクノロジーの現状
以上の目標がムーンショットにはあるが、この中で最も話題になり、人々を驚かせているのは(1)と(3)である。
そこで、今回はこの2つにポイントに絞って、現代の最先端テクノロジーの発展を参照しながら、少し詳しく見てみよう。
目標(1)「アバターの実現」について
内閣府のホームページでは、目標(1)は次のように具体的に定義されている。
・2050年までに、複数の人が遠隔操作する多数のアバターとロボットを組み合わせることによって、大規模で複雑なタスクを実行するための技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する。
・2030年までに、1つのタスクに対して、1人で10体以上のアバターを、アバター1体の場合と同等の速度、精度で操作できる技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する。
【サイバネティック・アバター生活】
・2050年までに、望む人は誰でも身体的能力、認知能力及び知覚能力をトップレベルまで拡張できる技術を開発し、社会通念を踏まえた新しい生活様式を普及させる。・2030年までに、望む人は誰でも特定のタスクに対して、身体的能力、認知能力及び知覚能力を強化できる技術を開発し、社会通念を踏まえた新しい生活様式を提案する。
さて、「複数の人が遠隔操作する多数のアバターとロボットを組み合わせる」とか、「望む人は誰でも特定のタスクに対して、身体的能力、認知能力及び知覚能力を強化できる技術を開発」などと聞くと、人間がテクノロジーによって根本的に変化させられてしまう時代がこれからやって来るのではないかいう、漠然とした不安が襲ってくるかもしれない。
すでに陰謀論の世界では、“2030年頃までにチップを人体に埋め込み、思考や感情も操作させてしまう時代が到来する”と言われているが、いよいよそうした時代が政府主導でやってくると感じるかもしれない。
そのような不安を抱くのは、当然だと思う。
しかしながら、ムーンショット計画だけで驚いていはいけない。
実は、人間のアバターを開発し、それを遠隔操作するというテクノロジーはすでに開発が進んでおり、導入もされている。
それらの例を見てみよう。
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「ipresence」という会社がある。ここでは、ビデオ画面を搭載したアバターを開発し、本人に代ってさまざまな体験ができることを可能にした。
以下が、アバターを使った観光やショッピングの実例だ。
観光・ショッピングソリューション
オフィスでアバターが本人に代わって活動する「Double Robotics」
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また、遠隔操作できれば、将来は人間の肉体的能力を拡張するアバターとして使えるロボットも、すでに開発されている。
身体機能を拡張したロボット「Atlas(アトラス)」
人間に代って仕事ができるロボット「HRP-5P」
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以上のビデオを見て驚いたかもしれないが、実はさらに進んだテクノロジーも開発されている。
コンピューターによる脳の操作である。
次のビデオは、2005年の番組だ。すでに15年も前にこの水準にあったのだから、今ではさらに発展していることは間違いない。
脳深部刺激療法
海馬チップ
脳コンピューターインターフェース
テクノロジーの適用によって、現在はすでに人間の脳の状態を変化させられる時代になっている。使い方を間違えば、とても怖いことだと思う。
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また、この水準をさらに越え、2045年までに人間の意識全体をアバターにアップロードして、不死の身体を獲得するという、ロシア人実業家によるプロジェクト(2045 initiative)も進行している。