高島康司の進化への扉/第28回 内閣府による「ムーンショット計画」と最先端AI&ロボットテクノロジー

B!

今回は、2019年に内閣府が立ち上げた「ムーンショット型研究開発制度」をテーマとしてみた。
この計画に関しては、人々を監視下におくためという陰謀論も含め、さまざまな見方があるようだが、最先端テクノロジーの現状を踏まえた論評が少ないようなので、その点を主軸に解説したいと思う。

 

ロボット・AI化を押し進める「日本のムーンショット計画」

まず、「ムーンショット」と聞くと、秘密めいたSF的な計画のようにも聞こえるが、特にそういうわけではない。

ムーンショットとは、1960年代の初めにアメリカのケネディ政権が、60年代までに月に行くことを宣言したのがこの名前の由来だ。
ケネディーが政権についた60年代初頭は、やっと宇宙への有人飛行が可能になった段階だったので、10年以内に月に行くとは、まさに奇跡であった。
そのような到達困難な目標を立て、その実現を目指すことを「ムーンショット計画」と呼ぶ。

昨年、内閣府が立ち上げた「ムーンショット型研究開発制度」とは、未来志向の困難な目標を実現するための研究開発を促進する制度のことである。
これがどのような制度なのか、内閣府のホームページを参照し、具体的に見てみよう。
次のようにある。

破壊的イノベーション創出に向けた挑戦

●世界各国は、破壊的イノベーションの先導をねらい、より野心的な構想や解決困難な社会課題等を掲げ、研究開発投資が急速に拡大。

●我が国が抱える様々な困難な課題の解決を目指し、ムーンショット型研究開発制度を創設。基礎研究領域の独創的な知見・アイデアを取り入れた挑戦的な研究開発を推進。

 

要するに「ムーンショット型研究開発制度」とは、困難な社会問題の解決に向けた、挑戦的で独創的な研究を推進する制度である。
これには平成30年度の補正予算で1000億円を計上、基金を造成。令和元年度補正予算で150億円を計上し、最長で10年間支援するとしている。

では、具体的にどのような目標を実現するというのだろうか?
研究制度は、次の7つの目標を掲げている。

ムーンショット目標

(1)
2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現。

(2)
2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現。

(3)
2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現。

(4)
2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現。

(5)
2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出。

(6)
2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現。

(7)
2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現。

 

アバターやロボットの最新テクノロジーの現状

以上の目標がムーンショットにはあるが、この中で最も話題になり、人々を驚かせているのは(1)と(3)である。
そこで、今回はこの2つにポイントに絞って、現代の最先端テクノロジーの発展を参照しながら、少し詳しく見てみよう。

目標(1)「アバターの実現」について

内閣府のホームページでは、目標(1)は次のように具体的に定義されている。

・2050年までに、複数の人が遠隔操作する多数のアバターとロボットを組み合わせることによって、大規模で複雑なタスクを実行するための技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する。

・2030年までに、1つのタスクに対して、1人で10体以上のアバターを、アバター1体の場合と同等の速度、精度で操作できる技術を開発し、その運用等に必要な基盤を構築する。


【サイバネティック・アバター生活】
・2050年までに、望む人は誰でも身体的能力、認知能力及び知覚能力をトップレベルまで拡張できる技術を開発し、社会通念を踏まえた新しい生活様式を普及させる。

・2030年までに、望む人は誰でも特定のタスクに対して、身体的能力、認知能力及び知覚能力を強化できる技術を開発し、社会通念を踏まえた新しい生活様式を提案する。


さて、「複数の人が遠隔操作する多数のアバターとロボットを組み合わせる」とか、「望む人は誰でも特定のタスクに対して、身体的能力、認知能力及び知覚能力を強化できる技術を開発」などと聞くと、人間がテクノロジーによって根本的に変化させられてしまう時代がこれからやって来るのではないかいう、漠然とした不安が襲ってくるかもしれない。

すでに陰謀論の世界では、“2030年頃までにチップを人体に埋め込み、思考や感情も操作させてしまう時代が到来する”と言われているが、いよいよそうした時代が政府主導でやってくると感じるかもしれない。

そのような不安を抱くのは、当然だと思う。
しかしながら、ムーンショット計画だけで驚いていはいけない。
実は、人間のアバターを開発し、それを遠隔操作するというテクノロジーはすでに開発が進んでおり、導入もされている。
それらの例を見てみよう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ipresence」という会社がある。ここでは、ビデオ画面を搭載したアバターを開発し、本人に代ってさまざまな体験ができることを可能にした。

以下が、アバターを使った観光やショッピングの実例だ。

観光・ショッピングソリューション



オフィスでアバターが本人に代わって活動する「Double Robotics」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

また、遠隔操作できれば、将来は人間の肉体的能力を拡張するアバターとして使えるロボットも、すでに開発されている。

身体機能を拡張したロボット「Atlas(アトラス)」


人間に代って仕事ができるロボット「HRP-5P」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

以上のビデオを見て驚いたかもしれないが、実はさらに進んだテクノロジーも開発されている。
コンピューターによる脳の操作である。
次のビデオは、2005年の番組だ。すでに15年も前にこの水準にあったのだから、今ではさらに発展していることは間違いない。

脳深部刺激療法



海馬チップ


脳コンピューターインターフェース

テクノロジーの適用によって、現在はすでに人間の脳の状態を変化させられる時代になっている。使い方を間違えば、とても怖いことだと思う。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

また、この水準をさらに越え、2045年までに人間の意識全体をアバターにアップロードして、不死の身体を獲得するという、ロシア人実業家によるプロジェクト(2045 initiative)も進行している。

このように見ると、現在の最先端的テクノロジーの発展水準は明らかだろう。
内閣府のムーンショット計画が目標とするアバターの開発は、決して野心的な目標ではない。すでにかなりの程度、実現しているのだ。

おそらく10年後の2030年頃には、ムーンショット計画も予想ができなかった水準にまで、人間を代用するアバターや脳の機能を拡張するテクノロジーに到達しているに違いない。

 

目標(3)「AIとロボットとの共進化」について

次に注目されているのが、「AIとロボットの共進化」だ。内閣府の計画書には、次のようにある。

<ターゲット>
・2050年までに、人が違和感を持たない、人と同等以上な身体能力をもち、人生に寄り添って一緒に成長するAIロボットを開発する。

・2030年に一定のルールの下で一緒に行動して90%以上の人が違和感を持たないAIロボットを開発する。

・2050年までに、自然科学の領域において、自ら思考・行動し、自動的に科学的原理・解法の発見を目指すAIロボットシステムを開発する。

・2030年までに特定の問題に対して自動的に科学的原理・解法の発見を目指すAIロボットを開発する。

・2050年までに、人が活動することが難しい環境で、自律的に判断し、自ら活動し成長するAIロボットを開発する。

・2030年までに、特定の状況において人の監督の下で自律的に動作するAIロボットを開発する。



さて、この分野もかなりの程度、実現されている。
現在の最先端AIロボット「ソフィア」を見て見よう。「ソフィア」は相手の感情を読み取り、会話の文脈と状況に応じて適切に会話ができる“自己学習型”のAIロボットだ。
人間によるプログラムの必要はない。自分で考え、勝手に行動する。

2017年に、サウジアラビアで市民権が与えらえた最初のAIロボットになった。ビデオの始めは「ソフィア」のシステムをアップグレードして、スイッチを入れた場面だ。

自己学習型AIロボット「sophia(ソフィア)」

これを見ると分かるが、やはりAIロボットの分野でも内閣府のムーンショット計画の目標は、特に野心的でもなんでもない。
「ソフィア」水準のAIロボットはすでに多数開発されており、病院、スーパー、レストラン、ホテル、役所などでさまざまなサービスを提供するために、我々の目の前に現れるのも時間の問題だ。

今注目されているホログラムのテクノロジー

最後に、ムーンショット計画には含まれていないが、今注目されているテクノロジーのひとつを紹介しよう。
それは「ホログラム」だ。テレビ会議システムなどで、すでに実用化されている。
特に、以下の3つめの動画の「7Dホログラム」は、現実と変わらないリアルな光景が目の前に突如現れるというテクノロジーだ。

HOLOGRAPHIC TELEPRESENCE

3D Hologram Meetings? Unbelievable Real Telepresence

7D hologram

 

テクノロジーの進化で人間の在り方が変わっていく

このように見ると、内閣府のムーンショット計画は、最先端の挑戦的で野心的なプロジェクトではないことが分かる。現代のテクノロジーの発展から見ると、十分に実現可能なものばかりだ。

最先端技術にかかれば、身体にチップが埋め込まれて外部から管理されるどころの話では、すでにないのだ。
人間はテクノロジーの適用によって、存在形態や意識を変えられてしまう対象になっており、我々はすでにそれを受け入れてしまっているのが現状だ。
このような状況では、テクノロジーの支配から人間をどう守るかという問ではなく、テクノロジーによって人間という概念がどのように変わるのかという問いこそ、問題になるはずだ。

私は「ソフィア」の開発者のひとりであるベン・ゴアーツェル博士に、インタビューしたことがある。「ソフィア」に人間と同じ意識があるのかどうかと聞くと、博士からは次のような答えが帰ってきた。

 

意識があるに決まっているだろう。ソフィアに会って話すと、よくわかるはずだ。
しかし、ソフィアはネットにつながり、世界中のオンラインカメラとつながることができる。いわば1000万個の目を持っている。
そうした存在がどのような意識を持つのか、それは人間と同じ意識なのかどうかは、開発者である私にも分からない。
すでにソフィアは勝手に自己学習して進化している。
私の手を離れてしまった。

 

おおよそ、このようなことを言っていた。

***
我々はすでに、ムーンショット計画を超えた世界に突入している。
それがどのような世界なのかは、また機会を見てお伝えしようと思う。

 

高島康司
たかしまやすし/コンサルタント、世界情勢アナリスト。北海道札幌市生まれ。子ども時代を日米両国で過ごす。早稲田大学卒業。在学中、アメリカ・シカゴ近郊のノックス大学に公費留学。帰国後、教育産業のコンサルティング、異文化コミュニケーションの企業研修などのかたわら、語学書、ビジネス書などを多数著す。世界情勢や経済に関する情勢分析には定評があり、『未来を見る!『ヤスの備忘録』連動メルマガ』で日本では報道されない情報を発信。毎年多くのセミナーや講演に出演し、経営・情報・教育コンサルタントとしても活躍している。
主な著作は、『2020年アメリカは分裂する! 』『望みなき時代の幸福論』(以上ヴォイス)、『日本人が「英語ペラペラ」を本当に実現できる本』(講談社)、『なぜ予測をはるかに超えて進むのか』(ヒカルランド)、『論理的会話トレーニング』(アスカビジネス)、他多数。

ヤスの備忘録 歴史と予言のあいだ
http://ytaka2011.blog105.fc2.com/

有料メルマガを出しています。よろしかったら、ぜひどうぞ!
未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ(毎週金曜日配信)
https://foomii.com/00169
※バックナンバーもごらんいただけます

ヤスの第四次産業革命とブロックチェーン(毎週火曜日配信)
https://foomii.com/00170
※バックナンバーもごらんいただけます

ツイッター
https://twitter.com/ytaka2013/

毎月最終土曜日の午後1時半から、都内で「ヤスの勉強会」を主催。
参加希望者は以下にご連絡を。
info@yasunoeigo.com

 

最新の記事はこちらから