ヘルメス・J・シャンブの「“在る”の息吹」/vol.3 天使とドラゴン

B!


2月20日に新刊『ヘルメス・ギーター』が発売され、ナチュスピのセッションも人気のヘルメス・J・シャンブさん。
今回も、ヘルメスさんお得意の“小説タッチの気づきの物語”をお届けしましょう。
※2冊目の著書『道化師の石(ラピス)』も小説仕立てで、独自の世界観を伝えています。

『へルメス・ギーター』
ヘルメス・J・シャンブ著/ナチュラルスピリット

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天使とドラゴン

かわいらしい天使が、手のひらに凶暴なドラゴンを乗せて遊んでいた。
吐かれた炎で羽が燃やされ、真っ黒に焦げてしまっても、「キャハッ」と楽しそうに喜んでいた。

 

ある日、天使が主に言った。
「ねえ、お父さん、ちょっと人間界に生まれてきてもいい?」。
「はあ?」と友だちの天使がバカにした。「おいおい、気でも狂ったのかい?」。

父である主は尋ねた。「突然、一体どうしたのだ?」。
「そうだよ」と友だちが言葉を添えた。「なんでまた、どうして?」。

天使から理由を聞いた主は、願いに応じることにした。
「その代わり」と主は言った。
「ここの記憶を全て失い、生まれてから三つの約束を成し遂げるまでは、帰って来ることはできなくなるよ」。
「うん」と天使は無邪気に答えた。

それから天使は人の子として生まれ、長い年月が過ぎた。
ジョナサンは、生きることに苦しんでいた。
一体、どうしたら心が平和になるのか、幸せになるのか、わからなかった。
ジョナサンには天国の記憶が全くなくなっていたので、どうすれば天国に行くことができるのか、わからなくなっていたし、天国というものが在るのかさえも完全に忘れ去っていた。

ジョナサンは必死に仕事を頑張っていた。いつも何かの目標を立て、それを達成するために努力をしていた。
恋愛もそれなりに楽しんだのだけれど、いつも、何かが違うと感じてしまって、結局いつも、恋人とは別れることになっていた。

それでも、気づくと寂しさや虚しさが込み上げてきて、欲望はあふれ返ってくるし、我慢しようと思っても、なかなかできるものじゃない。
時には自暴自棄になって、欲望のままにお酒を飲んで、だれかれ構わずに不満をぶちまけ、文句を言い、愚痴を言い、そうして夜にはまた孤独になって、「一体、どうしたらいいのだろう?」と苦悩するのだった。

見かねた友だちの天使が、その姿をあまりにも可哀想に思い、ジョナサンを助けようと悩んでいた。

けれども主には、「決して助けてはいけない」と言われていた。
それが主の優しさであることをわかっているつもりだったが、それでも心の中では「お父さん、助けてあげることは、悪いことではないよね?」と呟くのだった。

ある日の夕方、ジョナサンが疲れ果てて帰宅すると、郵便ポストに手紙が一通入っていた。
「また請求書?」と思った。「これじゃ、いくらお金があってもやっていけない」と。
ところがその封筒の中身を見てみると、このような言葉が書かれていた。

三つの約束を果たせば、君は天国に住むことができる。

「え?」とジョナサンは思った。
三つの約束?

「確かに!」とジョナサンは思った。その自信がどこからあふれたのかわからなかったが、すぐに直感で「これは間違いない」と信じた。

そうだ、確かにそうだ、わかる、なんとなくわかる、とジョナサンは何度も自分に言い聞かせるように呟いた。忘れないようにと、繰り返し唱える呪文のように。

でも、三つの約束って、何だろう?
一体、どうしたら天国に住むことができる?

ん? とジョナサンには疑問が起こった。
今まで、天国には行くものだと思っていた。
でも、住む? 天国に住む? 
天国って、ここじゃないどこか他の場所にあるものじゃないのか?

三つの約束を考えてみたのだけれど、まるで検討がつかなかった。それでも、とにかく三つのことをすれば良いのだな、とはわかった。

その夜、ジョナサンの夢には天使が出てきた。かわいらしい姿の天使が。

* * *

その手のひらには凶暴なドラゴンが乗っていて、激しく炎を吐き出しては、あたりかまわず燃やしてばかりいた。
けれども、その天使はそれが楽しくて、「キャハッ」と笑ってうれしそうにしている。
自分の羽が燃えていても何にも気にしない、無邪気なかわいらしい天使。

* * *

「はっ!」と目が覚めた。「そうだ!」。
そうだ、そうだ、そういうことだ、と繰り返した。

私は、これまでとは全く逆の生き方をしなければならない。

この考えが一体、どこからやってきたのか、ジョナサンにはわからなかったが、確かに「これだ!」と思った。
まるで記憶が蘇るような感覚になり、同時に、これまでの人生を自動的に振り返ることにもなった。

 

そう、私はいつも自分を満たそうとしてばかりいた。
求めて、求めて、求めてばかりいた。
いつも、何かを失ってしまうかのように感じてしまって、誰にも、何も与えたくはなかった。
気づくと、いつも何かを欲しがっていたし、目にするもの、手にするもの、出会うもの全てを自分のものにしたいと無意識に思っていた。

でも、こんな生き方では幸せにはなれないと、もう十分にわかっていたのではないか?
私は本当に、何かを手に入れてきたのだろうか? 
今この瞬間、いったい何が私を満たしているというのだろうか? 
知識をたくさん蓄えてきたけれど、どれもこれも結局、幸せにはしてくれない、見かけだけのガラクタ。
知識には、どのような生命力も感じられない。
私は、いつも渇望してばかりいた。
そう、もしかしたら私は、自分自身で自分を不幸にしていたのかもしれない。

そう、そう。
私はいつも他人を裁いてばかりいた。
お前は違う、お前は間違っていると、ずっと言い続けてきたような気がする。
でも、そんなふうに言うたびに、なんだか自分が怖くなっていた。
なんだか、裁いている自分が、裁かれているような気がしていた。
そう、そう、そう。

 

でも、あと一つは何だろう?
あと一つは何?
これまでと全く逆に生きるのに大切なこと、あと一つは何だろう? 

すると突然、激しく雷が鳴って、空が真っ暗になった。
ごろごろと鳴り響き、今にも真っ黒な闇が空から落ちてきそう。
「きっと、神様が怒っている」とジョナサンは無意識に思った。
「何かあったのか?」。

嵐のようなすさまじい強風が襲ったその時だった、気づくと目の前に巨大なドラゴンがいた。

「わ!」と思わずたじろぎ、ジョナサンは後退りした。そのドラゴンの目はギロリとしていかにも凶暴そうで、今にも襲いかかってきそうだった。
「怖い!」とジョナサンは即座に反応した。

ドラゴンはギラギラとした鋭い目つきで、獲物を見つけたかのように、じっとジョナサンを睨みつけている。今にも口から炎が吐き出されるかのようだった。
けれどもその時、ふいに時が止まった。

 

「キャハッ」。

澄み切った森林の香り。
優しく風が流れて、葉がざわざわと歌う。
生い茂った草がゆったりとなびいて、姿の見えない何者かが通り過ぎたよう。

空は青い。
ただそれだけ。
雲は白い。
ただそれだけ。

輝く太陽から無数に、線状の光が地上に降り注いでいる。
大地はあるがまま。
そう、あるがまま。

私は、自分を守る必要がない。
そう、そう、そう。
私は、私自身を守らない。
私はこれまで自分自身を守ろうとしてきたけれど、それが一番真逆なことだった。

ねえ、お父さん。思い出したよ。
私は、自分自身を守る必要がない──。

 

ふと目が覚めると、かわいらしい天使の頬をドラゴンがペロペロときれいに舐めていた。
天使はくすぐったそうに、「キャハッ」と無邪気に笑うのだった。

 

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ヘルメス・J・シャンブ
1975年生まれ。30代前半、挫折と苦悩を転機に、導かれるように真理探求の道に入る。さまざまな教えを学び、寺で修業し、巡礼の旅に出るが、最終的に「全ては私の中に在る」と得心、悟入する。数回に分けて体験した目覚めにより、ワンネス(一つであること)を認識し、数々の教えの統合作業に入る。「在る」という教えは、これまでの師たちの伝統的な教えであるため、師たちの名前を借りて「ヘルメス・J・シャンブ」と名乗り、初著作『“それは在る』を執筆。 その後『道化師の石(ラピス)』も刊行。現在は、ナチュラルスピリットでの個人セッションなどで、探求者たちに教えを伝えている。
https://twitter.com/hermes_j_s

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ヘルメス・J・シャンブ著/ナチュラルスピリット

『 “それは在る』
ヘルメス・J・シャンブ著/ナチュラルスピリット

 

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