先日、ご紹介したドキュメンタリー映画『静寂を求めてー癒しのサイレンスー』のプレミアム試写会が、8月23日「銀座ヤマハホール」で行われました。9月22日から順次スタートする全国公開に先がけてのお披露目です。
その内容を、一足お先にリポートでお届けしましょう。

上映場所の「ヤマハホール」。夜のとばりが降りたこの街の雰囲気といい、プレミアム感が漂います。

 

センセーショナルな無演奏の曲『4分33秒』から幕は開きました

上映前、まずはプレミアム試写会のみの特別コンサートが始まりました。用意されたピアノの前に現れたのは、海外でも活躍するピアニストの西川悟平さん。
計3曲のうち、最初の2曲はオリジナルとのことで、ドラマティックで心洗われる美しいメロディーと奥行きあるピアノの音が、胸いっぱいにしみわたります。目が覚めるような西川さんの見事な演奏に釘付けになり、これは本当に生演奏なのかと思うほど。

そして最後の曲は、なんと、この映画にも登場するジョン・ケージが作った無演奏の曲『4分33秒』。彼が生きていた頃に、センセーションを巻き起こした前衛的な作品を再現してくれたのです!
椅子に座り、鍵盤を見つめる西川さんを、かたずをのんで見守る観客。しかし、西川さんはそのままの姿勢で特に何をするわけでもなく、時は流れます。その間、場内は静まり返ったまま、観客はじっと彼を見つめています。
この曲は3章に分かれているらしいのですが、どのタイミングで章が切り替わったのかもわかりません・・・。4分半は、思いのほか長い時間です。じっと見つめているうちに意識が漂い始め、同時に、この表現しがたい緊迫感を共有している場内の方たちとの一体感も感じてきました。
ようやく終わったことを告げられると、居合わせた全員が人生で初めて聞く〝音なき曲〟に拍手が湧き起こりました。

後で知りましたが、西川さんは突然の難病で指がうまく使えなくなり、「一生、ピアノは弾けない」と医師から宣告されたそうです。それほど絶望視されていたにもかかわらず、自ら編み出した「禅プラクティス」で乗り越えて、奇跡の復活を遂げた方でした。音を通して、自らの内側へと向かわせるこの映画の世界観にぴったりの人物だったのです。

上映前のあいさつで、製作者ポピー・スキラーさんが、作品の魅力をこう述べました。
「私はこの映画を200回見ましたが、毎回、新しい気づきがあります」。

心身に不可欠な音、静寂には計り知れない恩恵がある

映画は、草原にたなびく草と、その真ん中にそびえ立つ1本の木のシーンから始まります。風に揺れる草がぶつかり合う独特な音がしばらく続き、別の光景へと切り替わるとともに、その場所に満ちる音が耳に入ってきます。
カメラはゆっくりと次々別のシーンを映し出しますが、いずれも自然界とそこに存在する音、そこで暮らす人を捉えた映像美が印象的。

静寂さの必要性について語る何人もの有識者たちのコメントも挟み込みながら、断片的なシーンと様々な音がクローズアップされ、まるで大自然の中を旅しているかのようです。
特徴的なのは、8ヵ国にも及ぶ数々の撮影地に満ちる音の大きさを、字幕にdB表示していること。この作品ならではのメッセージ性を感じます。

カメラが捉えた人たちは、静寂さの大切さについてコメントします。

沈黙の誓いを立て、徒歩によるアメリカ縦断の旅に出た青年
小さなノートには、びっしり書き込まれたメモ。歩きながら自らと対話し、内なる気づきを書き留めていました。
「(沈黙によって)人生経験は流動的になった」「現代人は心が混乱しているのだろう。だから自分は自分の心を把握したい。沈黙は探求すべきことである」

日本の豊岡市。晴れ渡る天気のもと、黙々と畑で農作業する人々の姿
誰も何もしゃべりません。遠くで鳥のさえずりが聞こえます。

その近くの建物で、禅に基づき、沈黙を重んじる生活をする僧侶たち
沈黙の中、僧侶がおひつのご飯をよそおう時の、しゃもじが器にあたる音が際立ちます。
僧侶いわく「沈黙は、毎日毎日、体で覚えていく」。

禅の教えに感化され、静寂さと雑音の二元論を唱えていた音楽家、ジョン・ケージ
万物との一体感を感じた彼は、音楽ではなく、4分半の静寂さを作品にしました。
「私たちが暮らす世界の中心にあるのは静寂だ。静寂さの中に神がいる」「静寂は存在しない。話すのをやめても。静寂は音だから。どんな場所にも雑音が存在している」

その他にも、広大な大地が広がり、静けさが漂うアラスカやアメリカの自然公園。
そうかと思えば、渋谷スクランブル交差点の喧騒。
それと対比するように、奥多摩の静かな森の中で研究成果を語る、宮崎良文教授
宮崎教授は、森の癒し効果について、大学医学部等と共同研究しました。
「遺伝子の面でも、人は静かな環境を望む生き物だった」「森は、予防医学的なヒーリング効果のある場です」

禅の精神に感化され、万物との一体を説いていたジョン・ケージ(1912-1992年)。1952年に誕生させた『4分33秒』は、一代センセーションを巻き起こした。©TRANSCENDENTAL MEDIA

 

騒音問題から浮かび上がる静けさの必要性

シーンは徐々に、けたたましい騒音が発生する海外の都会へと切り替わっていきます。騒音は気づかぬうちに心身にストレスを与える、という問題を提起しながら・・・。

騒音があふれる渋滞した道路、2分ごとに電車が窓の外を通る学校、アメリカの騒々しい病院内、祭典のお祝いが長期間続く世界一騒がしい都市・インドのムンバイ。
これらの場所は、いずれも終わりが見えない騒音問題を抱え、その悪影響を憂う有識者たちが、見る者に淡々と問いかけます。

騒音は知らぬ間に心身のストレスになっているという。©TRANSCENDENTAL MEDIA

騒音の環境は人間味を薄める。

騒音のストレスは、ある日突然、心臓発作を引き起こすかもしれない。

騒音を脳に入れないようにするんです、遮断する努力が必要なんです。

登場する実在の人物たちは、誰もが穏やかなたたずまいで、静かな口調でしゃべっていたのが印象的。©TRANSCENDENTAL MEDIA

静寂はあらゆる本質。

サイレンスは、私たちをあるべき姿に戻します。

静寂は自分の核心に帰る旅なのです。

サイレンスは、雑音から内なる世界へ向けてくれるもの。

静けさのみに宿る深淵な力を伝えるために

監督のパトリック・シェン氏は、これまで20の映画賞を受賞し、世界的に高く評価されている人物。彼は、この作品を瞑想的なドキュメンタリーとし、コンセプトについてこうコメントしています。

表現することが半ば不可能であろうと思える静寂さを、
型にはめることなく
解き放つことを意識して、制作に挑みました。
この映画は、私たちが静止して世界を体験しているように撮影しました。
そのため、
撮影にクレーンの動きや
ドローン、カメラの左右の動作などがありません。

この映画が、観客の歩みをスローダウンさせ、
新しい世界を体験してくださることを願っています。

静けさがどんどん失われていく社会と、騒音のストレスに疲弊していく人々。かたや、静けさのみに宿る力を理解し、そのかけがえのない時間を慈しむ人たち。
全てのシーンが折重なり合いながら、一つのテーマ「静寂さの必要性」へと至ります。
緻密に組み合わせた断片的なシーンと多様な音、登場する人々のメッセージが渾然一体となったこの映画は、押し付けがましさがなく、独特の余韻が残りました。
生活の中の静寂さを失うことは、自分らしさを失うことーー。そんな大切なことに気づかせてくれたのです。

森の癒し効果の研究で作品に登場した宮崎教授(左)と、製作者のポピー・スキラーさん、ピアニストの西川さん。 上映後のQ&Aで、宮崎教授からはこのようなコメントが。「人間は自然界に対応した体を持っています。自然はリラックスさせ、免疫を高めてくれます。現在は、第二の人工化によるテクノストレス社会。その中で、今回の映画という〝提案〟。音を選ぶこと、能動的に変化を求めることがよいと私は考えます。五感の中で、音の研究は一番遅れています。この作品は、音をテーマにした、たぶん初めての映画だと思います」。

 

《作品内容》
監督:パトリック・シェン
出演者:グレッグ・ヒンディ、宝積玄承、
ジョン・ケージ、奈良 宗久、他
81分/2015年/英語・日本語
配給:ユナイテッドピープル
原題:IN PURSUIT OF SILENCE

2018年9月22日(土)
ポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー!

詳しくはこちらをごらんください
http://unitedpeople.jp/silence/

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