浦沢直樹著『プルートゥ』レビュー2/慈しみが憎しみに勝つ時

この漫画の奇抜なところは、なんと、主人公のゲジヒトが途中で死んでしまうこと。
ロボットだからまた生き返るんじゃないか、と思うでしょうが、私もそれを期待しましたが、あまりに精密・高精度すぎると再び作るというのは困難なようです。
残念ながら、ゲジヒトは生き返りませんでした。そして、次に主人公となるべくバトンを渡されたのが、アトムです!

アトムはずいぶん前の段階で死んでしまっていたので、身体を修復し、人工知能を甦らせようと、お茶の水博士だけでなく、天才科学者・天馬博士(上の画像のメガネの人物)も参加し、あの手この手を尽くします。
しかし、アトムの人工知能は目覚めませんでした。目覚めない原因もさっぱりわかりません。あきらめムードが漂い始めていたころ、ゲジヒトが死んでしまったというわけです。

しかし、記憶チップといいますか、彼が体験してきた記録のデータは残りました。
そのゲジヒトのチップを、アトムに入れたのです。
なんでそんなことをしたのかというと、天馬博士が以前作った完璧な人工知能も、最初は目覚めませんでしたが、人間の脳の一部のコピーを入れたことで、目覚めた(起動した)からです。
人工知能に、人間の脳の一部という感情の偏りを注入することにより、方向性ができて、一つの人格らしきものが形成されるということのようです。

この経験をしていた天馬博士はアトムを生き返らせるために、ゲジヒトのチップを入れたのです。しかし、それは大きな賭けでもありました。ゲジヒトの感情がアトムに注入され、もとのアトムの性格がゲジヒトの感情(思考、判断)によって再形成されてしまうのですから。しかも、ゲジヒトが最後にどんな思いであったかが重要らしいのです。

ゲジヒトの最後は少々悲惨でした。同じロボット、それもゲジヒトが世話をした子どもロボットに銃器で殺されてしまうのです。なおかつ、ゲジヒトは銃器を向けられてもその状況を理解しきれないまま、裏切りの中で倒れます。
もう一つ、ゲジヒトには隠された過去がありました。本人は記憶を消されていて気づいていませんでしたが、彼もまた研ぎ澄まされた人工知能で人間に近づき、人を一人殺していたロボットだったのです。

目覚めたアトムはゲジヒトやエプシロン(光子エネルギーロボット)や、ほかの破壊されたロボットたちの意思を引き継ごうとします。中でも、チップとして入っているゲジヒトの情報・判断力はアトムの性格形成の中心となり、それは地球の命運がかかるほどの重大事項でした。
その時点で、マグマ溜まりに反陽子爆弾が投げ込まれ、最強ロボット2体の動きが地球の命運を握っていたからです。

『プルートゥ』(浦沢直樹×手塚治虫/小学館)より。この人がエブシロン。イケメンで優しいロボットです。

アトムは7体の最強ロボットを破壊した「犯人ロボット」(このロボットも人間の憎しみが生み出したロボット)と対決することに・・・。恨みを晴らすという目的を身につけ、圧倒的な強さを持つようになったアトムでしたが、犯人ロボットを破壊する寸前に、ゲジヒトの最後の記憶が再生されたのです。

「憎悪からは何も生まれないよ」。
その感情がよぎり、アトムは最後の攻撃を止めます。そして、自分の意に反してずっとロボットを殺戮し続けていた相手も、自分を取り戻し、アトムと一緒に涙を流したのでした。
私も彼らと一緒にここで涙を流しました。

『プルートゥ』(浦沢直樹×手塚治虫/小学館)より。主人公のロボット、ゲジヒトの最期。

犯人ロボットは人間の憎しみを注入され、殺戮を続けましたが、アトムにはゲジヒトの人間的な悩みから導き出された〝彼なりの結論〟を注入されました。
「憎悪からは何も生まれないよ」という、ゲジヒトの最期の思い。そんなロボットの無垢さを受け継いだアトムは、自分を見失うことなくすんだのです。

何度読んでも泣いてしまう「PLUTO」! 私たち人間の清涼剤となる一冊です!

(この記事を書いた人/東村山キヨ)

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