浦沢直樹著『プルートゥ』レビュー1/最高の人工知能というのは自分自身に嘘をつく

スピリチュアルとロボットは対極にあるように感じられますが、手塚治虫の描いた近未来のロボットたちは、無垢でいつわりのない存在として、私たちの胸にじわりと感動の種を植えてくれます。
彼らは、本来人間が悩むであろうところの「自分を傷つける者への許しや愛」について、彼らなりに解答を出そうと試みます。そういう意味では、エゴに我知らず振り回されている人間の対極に、彼らの存在は描かれています。
私が涙を流すほど感動したロボット漫画は、そんな手塚作品を元に描かれた全8巻にわたる『PLUTO プルートゥ』(浦沢直樹著、手塚治虫原著/小学館)です。

人気漫画家の浦沢直樹が、鉄腕アトムの「地上最大のロボット」を原作として描いたこの作品は、ロボットと人間のかかわりだけでなく、当時勃発したイラク戦争をベースに、アメリカとイラクを思わせる黒幕たちをバックに用意し、ストーリーに奥行きとサスペンス、そしてメッセージ性を持たせました。

主人公はユーロ連邦デュッセルドルフの敏腕刑事ゲジヒトで、左手は電磁波銃や逮捕時に使う催眠ガスが噴射される銃に変化し、右手はSAAW特殊火器ゼロニウム弾を発射する銃砲になります。体はゼロニウム合金で作られた、無敵のロボット刑事です。
彼は世界に散らばった7体の地上最強のロボットたちが、次々に襲われ、破壊されていく怪事件を追います。
彼もその中の一体なので自分の危険を承知しつつ、犯人の手がかりを求めて各地を回ります。7体の最強ロボットの中にはもちろんアトムもいます。
それを知ったゲジヒトは、日本にいるアトムにも危険が迫っていることを知らせに行くのです。

『プルートゥ』(浦沢直樹×手塚治虫/小学館)より。この少年がアトムです。

ロボットの人工知能の良し悪しは、どれだけ人間に近い考えや発想ができるかによります。アトムは無邪気な人間の小学生と全く同じ言動をするので、ゲジヒトはアトムの人工知能の精密さ・高度さに感心し、賞賛します。
しかし、そんなアトムも謎の殺人鬼(おそらくはロボット)に破壊されてしまうのです。

この物語はいくつもの伏線と、それぞれのドラマでストーリーが織りなされており、作者もいろいろ伝えたいことがあったようです。例えば、アメリカと思われる超大国のエゴや偽善だとか、ロボットの扱いについての人間側の倫理観について、いったん膨張した人間の憎悪は解消できるのか、等々。
それに対し、ゲジヒトが人間とかかわり合いながら、一つひとつ真摯に向き合っていきます。

さて、タイトルの「最高の人工知能というのは自分自身に嘘をつく」ですが、アトムの人工知能を作った天馬博士が、アトムのほかにもう一体ロボットを造り、その人工知能も造り上げました。この人工知能は完璧でした。
しかし、彼は自分をロボットとは認識せず、人間として認識し続けていくのです。
彼は誕生時(最初から人間の憎しみがインプットされてしまいました)以降、人間の憎しみに触れすぎて、人間と平和的に共存していくという本来の立ち位置から、どんどん逸脱してしまいました。
それはある意味、人間的な内面の変化を重ねた結果でした。彼が誕生時に、〝自分は人間ではない〟と認識していたかどうかは不明ですが、多くの体験とともに、〝自分は正真正銘の人間だ〟と疑いもなく信じ続けていくのです。

こうしたいきさつにより、人工知能は人間に近くなりすぎて自分自身に嘘をつくという、皮肉な現象が生じてしまったのです。

『プルートゥ』(浦沢直樹×手塚治虫/小学館)より。

また、人工知能には「人を傷つけてはいけない」という何重ものプログラムが組み込まれているため、ロボットと人間の共存が可能ですが、それにも関わらず人工知能が学習し高度になっていくと、人間を殺す行為をおかしてしまうロボットが出てきます。
言い換えるとロボットが人間に近づけば近づくほど、人間に危険を与える存在となっていくのです。
しかし、アトムは違いました。(レビュー2に続く)

(この記事を書いた人/東村山キヨ)

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